2019年7月21日(日)

京都観光が過熱 共生への知恵 IT活用や混雑分散

サービス・食品
関西
2019/7/11 6:00
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2018年の京都市の外国人宿泊客数はわずか1年で約100万人増え、450万人に達した。人気スポットに観光客が集中して混雑が深刻化するなど「観光公害(オーバーツーリズム)」との指摘も出始め、自治体などが対策に乗り出している。

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祇園町南側は、お茶屋を中心とした古き良き風情が受け継がれている地区だ。しかし、平日昼すぎに訪れると、小旗を掲げたガイドを先頭に外国人ツアー客が次々とやって来て、混雑ぶりに驚かされる。8日夜の火事の翌日にも多くの観光客が同地区を訪れた。

車両も通行する花見小路はスマホ片手の観光客で埋め尽くされ、今にもタクシーと接触しかねない。営業中の店舗の前で堂々とポーズを取って記念撮影をするなどマナー違反も目立つ。地区協議会の幹事を務める太田磯一氏は「この地区で飲食を楽しむお客様は雰囲気も楽しみにしている。それが台無しになって、皆、頭を抱えている」と話す。

市も手をこまぬいているわけではない。6月中旬に地区協議会などと観光客へのマナー周知・啓発のための検討会を発足。10月には、地区内を訪れた観光客のスマホに順守すべき法令や習慣・マナーを知らせるプッシュ通知が表示される仕組みを導入する計画だ。

違反行為を撮影するカメラを設置し、外国語が話せる巡視員も配置する。これに合わせ、地区協議会は路上での無許可の写真撮影をやめるよう訴える。「これまでマナー啓発をしてきたが、これからはこの地区でやってはいけないことを発信していく」(太田氏)

IT活用策は市が昨年の紅葉時期に嵐山地区で実施した混雑緩和の実証実験でも一定の効果を収めた。スマホなどのWi-Fiアクセスデータを解析してエリアごとの混雑を予測し、専用サイトで公開。閲覧者の約5割が混雑する時間を避ける行動をとった。サイトをきっかけに、人気エリア以外を訪問する分散観光の傾向もみられた。

ただ、こうした試みはまだ始まったばかり。京都は住民の生活圏と観光スポットが近接するなど、ただでさえ摩擦を生みやすい。観光と住民生活をどう調和させるかに注目が集まる。

■自転車使いスイスイ、朝8時に京料理堪能

京都市内では混雑する場所、時間帯などを外す「分散観光」メニューが増えつつある。

JR京都駅近くに立地する京都サイクリングツアープロジェクトは、市内のサイクリングツアーを受け入れている。その数、年間5000人以上に上る。最大6人の観光客に対して、通訳案内士の資格を持つガイドがつきっきりで解説する。人気の祇園かいわい路地裏を巡るコースは自転車レンタル料込みで1人6500円からだ。

移動の混雑に煩わされず、自分なりのペースでじっくりと市内を見て回れる点が人気だ。「アラブのロイヤルファミリーや米マイクロソフトのインセンティブツアー、F1選手団など、数々のVIPを受け入れてきた」(代表の多賀一雄氏)

京都の市街地をぐるりと囲む山々のトレッキングができる「京都一周トレイル」も人気だ。伏見稲荷大社や南禅寺などの人気観光地からふらりと山道に入り、数十分で市街地を一望する景色が堪能できる。コースは全長120キロメートルを超えるが、「市街地や観光施設から出入りが可能で気軽に自然を味わいながら観光地間を移動できる」(京都府山岳連盟)。

時間帯の分散も進む。世界遺産の二条城では朝8時半から京料理の朝食を味わえるプランを設ける。通常は非公開にされている茶室「香雲亭」で京の湯葉などをつかった料理が振る舞われ、初日の1日は定員40人を埋め尽くす盛況ぶりだった。

三重県在住の女性は「夫婦で朝6時に家を出てきた。季節感のある食事とすばらしい景色で満足しています」と話す。3年前から時間の分散の一環で始め、年間約3600人が参加。税込み3000円のコースはほぼ満席だ。

夜の時間帯では、祇園のランドマークである南座で夜7時半からのナイトプログラムを手掛ける。歌劇団「OSK日本歌劇団」の公演を行う予定だ。

小西美術工芸社のデービッド・アトキンソン社長「消費増促し対策の元手に」

京都市への観光客は年5000万人を超え、交通機関の混雑など「観光公害」が指摘される。国宝などを補修する小西美術工芸社の社長で、「新・観光立国論」などの著書で知られるデービッド・アトキンソン氏に課題を聞いた。

小西美術工芸社社長のデービッド・アトキンソン氏

小西美術工芸社社長のデービッド・アトキンソン氏

――観光公害への批判が高まっています。

「日本でも問題だという指摘は、感情論に近い。例えば、イタリアのベネチアは数万人しか住んでいない島に数千万人の観光客が来ている。それはオーバーツーリズムと言わざるをえない。日本全体でみれば、1億2000万人の人口に対して外国人観光客は3000万人程度だ。問題は観光客数が多すぎることではない」

――混乱が生じているのはなぜでしょうか。

「人が来ている割に、お金が落ちないことだ。日本は2020年をメドに4000万人の観光客を受け入れ、観光消費を8兆円に増やすという目標を掲げた。4000万人は達成可能だが、8兆円は未達の公算が大きい。本来、主となる目的は観光消費額で、4000万人は手段にすぎない。観光客から十分な消費額を得ていれば、それを元手に受け入れ体制を整備し、影響を緩和できる」

――具体的な対策はありますか。

「例えばバスが混んでいれば、本数を増やせばいい。運転手が不足するなら、観光客向けの運賃を引き上げるなどする。得た収益を運転手の待遇改善にあてる。宿泊施設にしても数千円から1万円程度の低単価の料金設定のところが多すぎる。格安からラグジュアリーまでバランスよくある方がいい」

――観光先進国の欧米と比べ、日本の観光地の入場料は安いという指摘があります。

「主に文化財だが、日本は欧米より極端に安い。二条城などがそうだが、単に引き上げるのではなく受け入れ体制を整備して満足度を高めなければいけない。海外にいけば、解説や多言語のガイドは当たり前。子どもを預ける場所を整備したり、休憩するベンチを整備したり。日本は整備がされていないから安いという側面がある」

「最終的にいくらの観光消費額がほしいのか。そのための人数と単価のバランスをどうとるか。その数字をもとに、ふさわしい整備が決まる。ただ見せるだけではなく、来た人に満足してもらうための受け入れ体制がなければ入場料は上げられない」

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