「おまえ」で呼ぶのは失礼? 中日の応援歌自粛に賛否

2019/7/10 11:30
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プロ野球中日ドラゴンズの公式応援団が選手を「おまえ」と呼ぶ応援歌の使用を自粛した。球団側から「名前で呼んでほしい」と求められたためという。職場や教育現場でも、最近は後輩や生徒を「君」「さん」付けで呼ぶことが多い。「おまえ呼ばわり」は失礼にあたるのか。

ナゴヤドームの外野席から応援する中日ドラゴンズのファン(6日、名古屋市東区)

ナゴヤドームの外野席から応援する中日ドラゴンズのファン(6日、名古屋市東区)

問題になっているのは2014年からドラゴンズ応援団がチャンスの場面で使ってきた応援歌「サウスポー」。1970年代に活躍したアイドル、ピンク・レディーの代表曲の替え歌だ。

歌詞の「おまえが打たなきゃ誰が打つ」とのフレーズに、球団が「選手に失礼。子供が使うのも教育上、良くない」と自粛を求めた。与田剛監督は「名前で呼んでほしいという趣旨」と説明し、球団広報は「応援団と協議し、歌詞について検討している段階」とコメント。応援団は今月1日、自粛を発表した。

応援歌を控えてから初の本拠地ナゴヤドームでの公式戦となった6日、チームが敗れたこともあり、外野席の竜党は「盛り上がりに欠けた」と不満を口にした。

愛知県小牧市の会社員、永尾雅俊さん(40)は「昔から応援歌でおまえとコールするのは普通。選手名の呼び捨てにするのとあまりニュアンスの違いはないと思う」と疑問を投げかけた。

一方、「選手が嫌と思うなら仕方ない」と受け止めるのは小学6年の長男(11)と外野席で観戦した岐阜市の女性会社員(41)。「子供が友人に使っていれば、自分も注意する」と話した。

変化の波は職場や教育現場にも及んでいる。食品メーカーに勤める名古屋市の男性(40)は男性の部下を「君」、女性の部下は「さん」付けで呼ぶ。二人称で威圧感を与えないよう会社の研修でも忠告された。「自分が若い頃は当たり前だったが、時代が変わったのだろう」と苦笑いする。

「では何と呼べばいいのか」と戸惑うのは東海地方の50代の男性警察官。「怒るときも褒めるときも励ますときも『おまえさあ』と親身に語りかけた方が思いが伝わるはず」と話した。

労働問題やパワーハラスメント(パワハラ)に詳しい佐々木亮弁護士は「おまえと呼んだだけでパワハラに該当するとは考えにくいが、呼称が問題になっている時点で、他のパワハラ問題が潜んでいる可能性が高い」と指摘。「『貴様』や『てめえ』はもちろん、『おまえ』も職場では使わない方が無難だ」と助言する。

教育現場でも「おまえ呼ばわり」は減っている。千葉県内にある教育委員会の50代男性職員は「10年ほど前から一切聞かなくなった」。当時の教委から人権への配慮として「生徒児童の呼び方は『さん付け』」との方針が各校へ伝えられたという。運動会の応援団が相手チームを「おまえ」と呼んだり、けなしたりする掛け声も同じ頃に姿を消した。

東京電機大の山口正二教授(カウンセリング心理学)によると、最近でも親しみを込めて「おまえ」と呼ぶ教師もいるが、「呼ばれた側は嫌な印象を抱いていることが調査で明らかになっている。使わない方がいい」と話している。

■元は目上を指す言葉
 広辞苑によると、「おまえ」はもともと「神仏または貴人の前。おんまえ」の意味があった。二人称もかつては「目上」を指して使われていたが、「今は主に男性が同等、あるいは目下を指す」言葉となった。
 敬語は時代の移り変わりで価値が下がる傾向があるという。定延利之・京都大教授(言語学)は「相手を指す言葉は『おまえ』に限らず、最初の丁寧な意味から変わっていく日本語のコミュニケーションの特質がある」と指摘する。「呼ばれる方は気分が良くなくなる。(ドラゴンズの)選手が嫌だと思ったとしても、言葉については驚かない」と話している。
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