シンガポール政府系ファンド、非上場株投資が最高に

2019/7/9 19:30
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【シンガポール=中野貴司】シンガポールの政府系ファンド、テマセク・ホールディングスが国内外の新興企業への投資を加速している。世界的に金利低下が進む中で比較的高い運用利回りが期待できるためで、運用資産全体に占める非上場株の割合は過去最高の42%に達した。歳出が膨らみ、運用益を国庫に還元する圧力が強まっていることも背景にある。

テマセク幹部は国内外の新興企業への投資を今後も強化する方針を示した(9日、シンガポール)

テマセクが9日に開示した2019年3月期の運用実績によると、240億シンガポールドル(約1兆9200億円)の新規投資のうち48%をスタートアップを中心とした非上場株に投資した。

アリババ集団傘下の金融会社、アント・フィナンシャルの総額140億ドル(約1兆5200億円)の大型資金調達に加わったほか、中国の次世代細胞医療のグラセル・バイオテクノロジーズにも出資した。インドでは配車大手のオラ、米国では食品宅配のドアダッシュ、国内ではファッション関連の電子商取引を手がけるジリンゴに出資するなど、国内外の新興企業に資金を投じた。

資産全体に占める非上場株の割合は18年3月期の39%から、42%に上昇。記録を遡ることができる04年3月期以降で過去最高の割合となった。

テマセク・インターナショナルのジルハン・サンドラセガラ最高経営責任者(CEO)は9日、「我々が集中投資している生命科学や農業、次世代金融などは様々な分野が融合しており、それらに投資機会を見いだそうとすると自然と新興企業になる」と説明した。「今後も非公開株への投資は増える」とも述べた。

上場株だけでは十分な利回りが見込めないこともある。19年3月期はシンガポールの複合企業のケッペル・コーポレーションの株価が約2割下がるなど保有上場株の価値低下が目立った。運用利回りは1.49%と、18年3月期の12%から大幅に下がった。

国内人口の高齢化でシンガポールの社会保障費用は膨らんでおり、予算編成での政府系ファンドへの依存度は高まっている。テマセクや同じ政府系ファンドのGIC、外貨準備の運用益による補填額は、19年度予算で171億シンガポールドルに達する見通しだ。法人税収(167億シンガポールドル)や個人所得税収(118億シンガポールドル)を上回る規模で、不透明な経済環境下でも安定した運用益の計上を期待する圧力は強まっている。

政府は5月、安全な運用が求められる外貨準備の一部(450億シンガポールドル)をGICに移した。未上場株や不動産など、リスクは高くても高い利回りが期待できる資産で運用し、利回りを底上げしていく狙いだ。

米中の貿易摩擦についてテマセク幹部は9日、「投資先への直接的な影響よりも、二次的、三次的な影響を懸念している」と話した。テマセクの運用資産のうち中国向けが26%、北米向けが15%を占めており、貿易摩擦の長期化は運用成績や今後の投資先選定に負の影響を与えかねない。

テマセク・ホールディングスはリー・シェンロン首相の妻であるホー・チン氏がCEOを務める。大手銀行のDBSグループ・ホールディングスやシンガポール航空の大株主であり続けるなど、シンガポールの国家戦略と深く結びついている。米調査会社ソブリン・ウェルス・ファンド・インスティテュート(SWFI)によると、世界の政府系ファンドの中でGICは資産規模で7位、テマセクは8位とアジア有数の規模を持つ。

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