2019年8月26日(月)

米・イラン、威嚇の応酬 偶発衝突リスク懸念

イラン緊迫
2019/7/8 23:00
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【ワシントン=中村亮、テヘラン=岐部秀光】核開発を巡る米国とイランのさや当てが激しさを増してきた。イランは8日、ウラン濃縮度が2015年の核合意で定めた上限を超過したと発表、米は追加制裁を視野に入れる。イランは欧州など他の合意当事国との対話に進展がなければ60日後に追加措置に踏み切る構えも見せており、緊張は一段と高まってきた。

「イランは気を付けた方がよい。よいことでは全くない」。トランプ大統領は7日、静養先のニュージャージー州でイランによるウラン濃縮度引き上げをけん制した。

トランプ氏はオバマ前政権が結んだ核合意ではイランの核開発を制御できないとして、18年5月に一方的に離脱を表明した。イランに核兵器保有を許せば20年大統領選で政策の失敗と批判されかねず、核開発の阻止へ圧力を強める。

追加制裁で取り沙汰されるのが、イランに認めてきた核の民間利用に制裁を科す案だ。核合意ではイランがロシアの支援を受けて中部フォルドにあるウラン濃縮施設を核関連研究施設に衣替えすることや、南部のブシェール原子力発電所の稼働を容認していた。

ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は7月上旬、イランの核関連活動を一切認めない姿勢を示すため、核の民間利用を制裁対象外とする特例措置を8月にも打ち切る可能性に言及した。ただ特例措置の停止はイランが核開発を進める口実に使われかねず、政権内にも慎重論がある。

イランの核関連施設にサイバー攻撃を仕掛ける可能性もある。「サイバー攻撃は軍事攻撃に比べ政治的なコストが圧倒的に低い」(元ホワイトハウス高官)利点があり、核開発能力を効果的に下げられるとみるためだ。

経済制裁を強化する選択肢もある。「瀬取り」と呼ばれる海上での原油密輸の取り締まりを強め、イランの外貨獲得手段を狭める可能性がある。

一方、トランプ氏は「イランとの戦争を望まない」とも強調し、核開発に関する新たな枠組みにも意欲を示す。トランプ氏は海外での米軍の活動を縮小させると訴えており、軍事衝突に発展すれば20年大統領選に悪影響を及ぼすとの見方も強いためだ。

ただトランプ政権はウラン濃縮や弾道ミサイル開発、周辺国の武装勢力支援の完全停止など12項目をイランに要求している。イラン側は米の制裁解除を対話の条件としており、「ディール」(取引)は現時点で望み薄との指摘も多い。

イランは核合意そのものを壊そうとしているわけではなく、小出しに違反を重ねて、英独仏など他の合意当事国から協力を引き出すのが狙いとみられる。ウラン濃縮度を4.5%程度と核合意の上限(3.67%)をやや上回る水準にとどめたのも、対話へのメッセージと受け止められている。

一方、イラン原子力庁の報道官は8日、義務停止の第3弾ではウラン濃縮度の20%への引き上げや遠心分離機の稼働数の増加も選択肢になるとクギを刺した。欧州連合(EU)にイラン支援策の取りまとめをせかす思惑があるとみられる。

イラン外務省の報道官は8日の記者会見で、第3弾の義務停止に踏み切っても核合意からは離脱する考えはないと強調した。だが核兵器取得にかかる時間の短縮につながりかねない重大な規定違反にEUが反発するのは必至で、核合意は崩壊の瀬戸際に追い込まれる。

懸念されるのは米国とイランが相手の「レッドライン(越えてはならない一線)」を読み誤り、偶発的な軍事衝突を招くリスクだ。米の追加制裁をイラン強硬派が「宣戦布告」と解釈し、暴走する懸念もある。一方、イランの揺さぶりを米や対立国が「核武装のシグナル」と受け止めるおそれもある。

オバマ前政権までは米イラン間には非公式の対話チャネルが存在し、危機を防ぐ役割を果たしてきた。しかし、トランプ政権になって、その多くが失われたとみられている。ふとした誤解や事故が深刻な危機を招く可能性は捨てきれない。

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