2019年9月17日(火)

「ホルモン」 オムライス店が広げる?
とことん調査隊

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/7/9 7:01
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ビールのおいしい夏。そのお供に手ごろな値段で楽しめる「ホルモン」を頭に浮かべる人も多いだろう。特に関西では下町から都市部の繁華街まで、どこでもホルモンのちょうちんや看板を目にする。関西に深く根付き、焼き肉や煮込みや鍋料理として親しまれるホルモン文化はいかに広まったのか。言葉のルーツからたどってみた。

昼食をとろうと訪れた大阪・心斎橋にあるオムライスの有名店、北極星。とろける卵を思い浮かべつつ、手元の割り箸の袋を何気なく眺めた。「昭和12年(1937年)ホルモン料理を考案」と誇らしげに記されているではないか。オムライスとホルモン? 意外に思える組み合わせだが、北極星がホルモン発祥の地なのだろうか。がぜん興味が湧いてきた。

さっそく東アジア文化研究家で、日本と朝鮮半島の文化交流史に詳しい佐々木道雄さんに聞いた。「焼肉の文化史」などの著書を持つ専門家だ。「北極星を創業したのは北橋茂男氏です。内臓という意味でホルモンという言葉を大々的に宣伝し、広めたと言える人物です」。北橋氏はフランス料理の手法で内臓を調理し、強壮・健康料理としてメニューに掲げた。ホルモンの一般化に大きく貢献したと言えそうだ。

残念ながら当時のメニューは残っていないようだ。しかし昭和初期、ホルモンは世界屈指の都市に成長した大大阪時代を彩るハイカラな食べ物だったのだろう。人気を集め「ホルモン=内臓」の図式は世間にも定着していったと考えられる。

時代は下るが、北極星の記録に残っている1964年のメニューによると、牛の目玉のゼリーよせ、肝臓の生洋酒漬け、牛の脳のポタージュ、心臓のトマトサラダといった料理が並ぶ。現在ではあまり食べない部位も多い。「材料が入手しづらい部分で、下処理が大変なうえ保存もしにくい」(北極星を運営する北極星産業)といった理由でメニューから姿を消すことになった。

実は、ホルモンの語源としての歴史はもう少しさかのぼるという。1920年ごろには内分泌物質という意味の医学用語から「ホルモン料理=強壮・健康食」という意味で使われていたのだ。当時は「肉だけでなく卵や納豆、山芋などまで含めてホルモン料理として紹介する料理本が盛んに出版されていた」と佐々木氏は説明する。納豆や山芋までがホルモンとはこれまた意外な組み合わせだ。

その後、徐々に「ホルモン=内臓」の意味に集約され、北極星などがその名を広めた。戦時中の物資不足で一時は下火になってしまったが、戦後の闇市から再び全国区に復活。何度かの焼き肉ブームを経て韓国料理のイメージも付与されて今に至る。

医学用語を語源に強壮・健康食を意味したホルモンという言葉が時代とともに意味やイメージを変えた。一方、放って(捨てて)いた内臓を利用したという意味の「ホルモン=放るもん」説も有名だ。これについてはどう考えればよいのか。

「この説が広がったのは1970年代からと見られます」と佐々木氏は言う。ホルモンという言葉は1920年代から使われており、語源としての放るもん説は俗説とみるべきだろう。それでも言葉遊びの面白さから一定の説得力は持つと言える。

余談だが、強壮食としてホルモンを広めた北橋氏は後に著書で、肉などの食べ過ぎによる健康への悪影響を執拗に訴えている。ホルモンを内臓料理として広めたことを「罪悪であったかもしれません」とまで書いているから驚きだ。夏本番はこれからだ。北橋氏の助言を忘れず、くれぐれも食べ過ぎには気をつけて暑さを乗り切りたい。(佐藤洋輔)

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