2019年7月20日(土)

ソフトバンクGのヤフー再編、節税と脱税の境目は?
グロービス経営大学院・斎藤忠久教授が読み解く

コラム(ビジネス)
2019/7/12 5:30
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ソフトバンクグループが実施した、子会社のヤフーをめぐるグループ内資本再編で、巨額節税の手法が耳目を集めました。専門家の間でも評価は分かれています。節税とは何か、どのようなメリットがあるのか、そもそも税金とは何か。グロービス経営大学院の斎藤忠久教授が、ビジネススクールで学ぶスキル「節税効果」の観点から解説します (もっと学びたい方はこちら)

【関連記事】ソフトバンクG ヤフー再編で税メリット

■借入金の提供者・国家・株主

企業経営者の最大の目的は、その企業価値を最大化し、その結果として株主に報いることにあるとされています。企業は、投資家(株式に投資する株主、そして借入金の提供者)から調達した資金を活用した事業活動を通じて付加価値を生み出していきます。ここで、資本提供者とは、プロの投資家(機関投資家や銀行等)に限りません。個人企業であれば、オーナーは株主であり、借入金の提供者でもありえます。個人は企業の株式を購入することで株主になり、また、銀行に預金を預けることを通じて間接的に借入金を企業に提供していることになります。

したがって、生み出された付加価値は、そのもととなる資金を提供した投資家のものではありますが、事業活動にあたって国家が提供するインフラ(ここでは、道路といったハードだけでなく、法律や文化といったソフト面も含む、国家が提供する幅広いサービスをいう)を利用していることから、その利用料として、生み出された付加価値の一部を「税金」として国家に納付することになります。

「企業の生み出す付加価値の総額=借入金の提供者の取り分+国家の取り分(=税金)+株主の取り分」

ということになり、その取り分の優先順位は、法律の定めにしたがって、「借入金の提供者」、「国家」そして「株主」の順番となります。企業価値とは、「借入金の提供者」そして「株主」に帰属する価値であることから、企業価値を最大化するためには「国家」の取り分である税金を最小化する必要があるのです。企業が持つ資産の生み出す価値、税金そして企業価値の関係を図で見てみましょう。

企業が持つ資産が生み出す付加価値の総額を仮に4000億円とします。税金がない世界では、税金としての外部流出がないため、投資家全体(借入金の提供者+株主)が受け取る価値は4000億円となります。ところが、我々が住んでいる税金のある世界になると様相が一変します。借入金があるとないとでは、企業価値が大きく変化するのです。これは、資産が生み出した価値の一部が税金として外部流出することから、企業価値が減少するためです。したがって、企業価値を最大化するためには税金として外部流出する金額を最小化すれば良いことになります(つまり、節税を行う)。借入金の導入はその一策です(借入金の支払利息の節税効果)。

税金は、収益から各種の費用を差し引いた後に残る利益(課税所得)に対して一定の率(税率)で課されます。したがって、税額を削減するには、「課税所得を削減する」もしくは「税率を下げる」の2つの方法しかありません。「税率」は各国の税法によって定められているので、企業として勝手に下げることはできません。このため、世界を舞台に事業を展開している企業では、経費は税率の高い国で支出し、利益は税率の低い国に集中することで企業全体としての税率を下げようとしています(一例として、医薬品メーカーには、研究開発は税率の高い米国で、営業活動は税率の低いアイルランドで行う企業が多い)。一方、課税所得を削減する方法としては、税法の規定で(投資を奨励することを主目的として)各種の税優遇策が提供されています。

■行為の背景にある「意図」が基準

さて、今回のソフトバンクグループの組織再編で活用されたのは、組織再編にともなうヤフー株式の売却代金が税法上の規定で「みなし配当」に該当し、その大半が「益金不算入」となったことによる納税額の大幅削減です。税法の規定には沿った処理ですが、最終的にはその組織再編が、経済合理性のある再編か、それとも節税のみを目的にした再編かどうかが、節税か脱税かの判定の分かれ目となります。

脱税は明らかに法律違反ですが、節税は法律の規定内である限りは容認されるべきものでしょう。ただし、時代の変化とともに法律策定時には想定できなかった状況も起きます。脱税と節税の境目は必ずしも明確ではないですが、最終的には、その行為の背景にある「意図」が判定基準となります。立法の趣旨に反する事例が多くなってきた(良識ある国民の感情の総意として)場合には、法律の規定が時代に即さなくなってきているということで、改定されるべきでしょう。

ところで、税金は「企業活動の結果うみだされた付加価値のうち、国家がそのインフラを提供する対価として配分にあずかるものである」と考えられます。すると節税とは、インフラ利用料を引き下げることによって、付加価値を国家から一私企業へ移転させることと同義と考えることもできます。合法的とはいえ、「国に上納すべき税金」を意図的に削減(節税)して、付加価値を一方的に移転させることはけしからん、という国民感情は残るかもしれません。

しかし、その前に、国家は本当に価値あるインフラを最小のコスト(税金)で提供できているのかどうかを自問する必要があるのではないでしょうか。全企業・全国民が節税を行っていけば、国庫に入る税収は低下し、政府自体もリストラを行う必要が出てきます。その結果、企業・国民が希望する水準のインフラの提供が困難になれば、企業・国民が納得する範囲内で増税すればよいでしょう。税制とは、国家・企業・国民が最適に機能できるよう、民間部門と国家(インフラ部門)の価値配分を規定する重要な政策なのです。

「節税効果」についてもっと知りたい方はこちらhttps://hodai.globis.co.jp/courses/391227b5(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

さいとう・ただひさ
グロービス経営大学院教授。銀行からコンサルティングファームに出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、音響機器メーカーの取締役CFOそして米国持ち株子会社の副社長兼CFO、米国通信系ベンチャーの日本法人代表取締役社長、エンターテインメント系ベンチャーの専務取締役、東証1部上場モバイル向けコンテンツ配信企業の取締役兼執行役員専務CFOを歴任。

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