米中、貿易よそに金融は深化(The Economist)

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2019/7/9 2:00
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貿易戦争、ハイテク戦争、新冷戦、デカップリング(切り離し)と呼び方は様々だが、何であれ米中の対立はすさまじい。昨年から次々に関税が引き上げられ、両国の輸出は減少している。貿易交渉こそ再開したものの、米中は互いの企業を「禁輸対象リスト」に追加する姿勢をみせている。

2018年以降、海外投資家による中国株式市場への総投資額は750億ドル(約8兆円)に上るという=ロイター

2018年以降、海外投資家による中国株式市場への総投資額は750億ドル(約8兆円)に上るという=ロイター

元米財務長官のヘンリー・ポールソン氏の言葉を借りれば、そう遠くない将来に「経済的な鉄のカーテン」によって世界は分断される恐れがある。

ただ、意外なことにこの対立深化の流れに逆らっている重要な業界が一つある。金融業界だ。米中貿易戦争が始まって以降、中国と欧米の金融面での結びつきはむしろ深まっているうえに、今後さらに深化していくことになりそうだ。

欧米の保険会社や資産運用会社、証券会社は長年、中国企業に50%未満しか出資を許されてこなかった。しかし、中国政府は金融市場の開放策を進めつつある。2018年6月末からは外資系金融会社に51%まで出資を認めるようになり、李克強(リー・クォーチャン)首相は今月2日、20年からは外資企業による全額出資を認めると発表した。

■海外の中国株式市場への投資額は今後10年で1兆ドルに

このように金融界に身を置く人々と貿易交渉担当者たちが全く違う世界にいるように思えるのは、金融の出資規制に絡む分野だけではない。中国は現在、外国人投資家による中国市場への参入も容易にしようとしている。18年初め以降、海外の投資家が中国株に投じた総額は約750億ドル(約8兆円強)に上る。この間、海外投資家は有力な新興国から約80億ドルを引き上げている。

米金融大手ゴールドマン・サックスの推計では、今後10年間で海外から中国株式市場に流入する投資額は約1兆ドルに上り、中国は世界有数の投資先になるという。これは、中国政府が自国民には厳しい資本規制を課す一方で、外国人投資家には株を売却し、資金を国外に移すことを禁じていないことが大きい。

また、規制緩和に伴い、米大手指数算出会社MSCIの世界株価指数などに占める中国本土株の組み入れ比率も拡大傾向にある。

米ウォール街や英シティーの企業が中国でもっと事業展開できるよう支援する必要があるとは中国でも欧米でもあまり思われていないが、中国の金融分野における規制緩和がもたらす影響は極めて大きい。米モルガン・スタンレーや米ブラックロック、英シュローダーズなどの金融各社は長年、中国本土でも小規模ながら事業を展開してきたものの、今後は本格展開に乗り出すのか決断しなければならない。

欧米企業は、中国で必要な影響力やコネを持ち合わせていないと懸念する人もいる。また、中国国営の巨大企業で、約170万人もの販売員を抱える中国人寿保険に正面から対決を挑む保険会社などないだろう。それでも海外の金融機関が中国に保有する資産規模はこの2年で40%拡大し、今や約6500億ドルに近い。ただ、それでもこの金額は中国の全金融資産の2%にも満たない。

しかし、中国で大きな事業を築ける見込みのあるグローバル企業はある。アジアにルーツを持ち、ロンドンを拠点とする英金融大手HSBCは既に4分の3の利益を香港と中国で稼ぎ出す。米保険大手AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)の旧アジア部門、AIAは中国に進出する外資系保険会社では最大手だ。欧米の資産運用会社は、中国の金融関連企業にはない長い歴史とグローバルなノウハウを持つ。中国の顧客がやがて資産を多角化しようとすれば、その強みが中国市場でシェア獲得に役立つ可能性は高い。

■中国資本市場の水準アップは中国にも不可欠

中国も、金融分野の開放策によって恩恵を受けていく必要がある。多くのウォール街の金融各社の経営者はこの数年で、中国びいきから対中強硬派に転じた。従って中国としては、ここで米金融界の関係者にうまく取り入り、点稼ぎをする必要がある。ただ、そのことで得られる利益以上に、一連の開放策で中国が得られる利益の方がはるかに大きいだろう。

中国の資本市場は発展途上にあるとはいえ、巨大なだけに、欧米企業が本格的に事業展開すれば、その水準を引き上げることにつながる。そのことは、中国がもっと資本を効率的に配分し、中国人の預金を生かしていく上で、最優先すべき事項だからだ。

加えて中国は今、これまでよりも海外からの資本を必要としている。中国の経常黒字は07年の国内総生産(GDP)比10%から昨年には同1%未満にまで減少している。海外から安定的に資金が流入しなければ、人民元が下落し、不安を招くリスクがある。

中国と金融面で結びつきを持つことは裏切りに等しいと主張する欧米の政治関係者もいる。トランプ米大統領の首席戦略官・上級顧問だったスティーブ・バノン氏は、米証券取引所に上場している中国企業について、それらの上場を取り消すべきだとしている。対中強硬派で知られる共和党のマルコ・ルビオ上院議員は、MSCIがその株式指数に中国国営企業を組み込んだことは、米国の資金を中国共産党に提供しているようなものだと批判している。

だが実際には、米中の金融面での結びつきが深まることは好影響をもたらす可能性が高いため、中国ウオッチャーとして長年知られる前出のポールソン氏などは、西側諸国の金融機関の中国進出を支持している。中国企業に海外の株主が登場したり、海外の金融機関が中国企業の債券発行や株式上場の引き受けを担うようになったりすれば、中国企業のビジネスのやり方も変わっていくことになるからだ。決算発表の電話会見のたびに厳しい質問に直面している中国のネット通販最大手アリババ集団をみれば分かる。

■国際ルールに従うことにつながるメリット

これらの要素によって中国がすぐに市場経済の国に変わるわけではないが、中国企業が透明性を高め、市場からの反応に対応し、知的財産権を尊重する方向へとつながっていくはずだ。中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)がHSBCを活用したように、中国企業が海外進出にあたって欧米の銀行を使うようになれば、汚職や制裁措置を巡る様々な国際ルールに従うことを余儀なくされていく。

米国が国際金融システムから中国を排除しようとすれば、中国は1945年以来、国際金融市場を支配してきたドルベースのシステムに代わるシステムをやがては構築することになる。そうなれば米中は今にも増して幅広い分野で対立を深めることになる。

中国は当面は、米中が貿易や技術を巡って対立しても、海外投資家や外資企業の中国市場参入を歓迎し続けるだろう。これは喜ばしいことだ。関係を断ち切るよりも、築き上げる方が得られるものは多いのだから。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. July 6, 2019 All rights reserved.

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