2019年7月20日(土)

関西発「ユニコーン」上場へ、時価総額1500億円規模に
ステムリム、独自の再生医療 患者負担小さく

スタートアップ
ヘルスケア
関西
2019/7/5 17:43
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大阪大学発スタートアップのステムリム(大阪府茨木市)が5日、東証マザーズへの上場承認を得た。患者負担やコストを抑えながら、臓器や組織の損傷を人間の治癒力で回復させる独自技術を開発する。上場時の時価総額は1533億円程度を見込み、関西発のスタートアップでは異例の企業価値が10億ドル(約1080億円)を超すユニコーン級の大型上場だ。

上場予定日は8月9日で、新株に加えて経営者らが持つ株式も売り出す。売り出し価格は1株2370~3730円を想定し、投資家の需要を踏まえ8月1日に決める。調達額は約200億円となりそう。調達した資金は治療対象の疾患の拡大に向け、関西での研究開発拠点の新設などに充てる。

証券会社のIPO担当者によると「関西での過去20年のスタートアップの上場で同様の規模は珍しい」。創業間もない時期での関西企業の大型上場では1998年8月に店頭公開したメガチップス(約540億円)などがある。

ステムリムが開発するのは「再生誘導医薬」という独自の治療薬で、脳梗塞や心筋症などの患者に投与する。骨髄から細胞の修復を促す幹細胞を血液に引き出し、損傷組織に集め再生させる効果を見込む。皮膚がはがれる難病の表皮水疱(すいほう)症や脳梗塞の治療に向け、阪大や塩野義製薬と患者への有効性を確かめる第2段階の臨床試験(治験)に入った。

心筋症でも2019年度中にも第2段階の治験入りを計画する。動物実験の段階では脊髄損傷や変形性膝関節症などでも効果を見込む。

再生医療ではiPS細胞を直接損傷部に注射するといった治療手法への関心が高い。ただ細胞の作製コストや安定的な大量培養、組織のがん化など実用化への課題は多い。頭蓋骨に穴を開けて細胞を投与するなど患者の肉体的な負担も大きい。

ステムリムの再生誘導医薬も再生医療の一種だが、従来の薬の投与に近い形のためiPS細胞を使う治療方法と比べ実用化のハードルは低いとみている。患者への負担も小さくしながら、低コストで再生治療の恩恵を提供できる可能性がある。

再生誘導医薬はステムリムのみが取り組む新規分野。他社の参入を難しくするために国内外で78件の特許を取得し、40件を申請中だ。

同社は阪大の玉井克人教授の研究成果をもとにした医薬品の開発に向け、06年に設立された「ジェノミックス」が前身。18年7月に現社名に変更した。アンジェスエムジー(現アンジェス)やオンコセラピー・サイエンスなど日本の代表的なバイオベンチャーを率いた冨田憲介氏が会長を務める。ベンチャーキャピタルが25%程度、経営陣らが約50%を出資する。

もっともバイオベンチャーの経営は難しい。成果がでれば一気に企業価値は高まるが、新薬などの実用化には長い年月と膨大な資金を必要とし、成果に結びつかないことも多いからだ。ステムリムも18年7月期の売上高は製薬会社からのライセンス収入などで2億円だったが、研究開発費などがかさみ最終損益は3億2300万円の赤字だった。今年2月には創薬ベンチャーのサンバイオ株が治験の不調をうけて急落。足元では1月21日につけた上場来高値と比べ、7割以上低い水準で推移している。

■ユニコーン予備軍、関西乏しく

企業価値が10億ドル(約1080億円)を超える未上場企業を「ユニコーン」と呼ぶ。日本ではAI開発のプリファード・ネットワークス(東京・千代田)が知られ、上場時の時価総額(企業価値)が1兆円を超すとの試算もある。同社に続くユニコーン予備軍の登場がスタートアップ業界の注目点の1つだ。

日本経済新聞社の「NEXTユニコーン」調査では、企業価値(2018年10月時点)が30億円を超えた関西のスタートアップでは化学品製造技術開発のマイクロ波化学(大阪府吹田市)や駐車場シェアのakippa(アキッパ、大阪市)などに限られる。ただ関東に拠点を置くスタートアップとは額でも社数でも差がある。

一因として関西にはものづくり系企業が多いことがある。ITサービス系は新事業に比較的乗り出しやすく、ビジネスモデル次第では創業から短期間で企業価値が大きくなる。ある銀行のスタートアップ担当者も「関西にはITサービス系企業のスタートアップが少ない」と指摘する。

ものづくり系以外で関西で目立つのは、02年に上場したアンジェスやiPS細胞関連の技術を支援するiPSポータル(京都市)などバイオベンチャーだ。ただ研究を成果に結びつけるまで時間がかかりがちだ。

足元では関西でも大学の基礎研究を実社会につなげるための起業が相次ぎ、大企業との連携が進むなど成長の土壌は整いつつある。まずはこの仕組みを軌道に乗せることが、ユニコーン候補を増やす条件となりそうだ。

(大阪経済部 宮住達朗)

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