松本城や彦根城… 家紋入り御城印で歴史ロマン満喫

神社や寺で頒布される「御朱印」が人気だが、ここ数年、そのブームは各地の城にも波及している。登城記念の「御城印」を出すところが増え、ファンの間で人気化しているのだ。お城探訪の新たなきっかけになった御城印の魅力を探った。
熊本城の復興契機に広がり
神社の御朱印のように筆で書かれた城名に、朱で押された家紋。それが城で販売される通称「御城印」だ。1枚数百円程度で「お城御朱印」や「登城記念御朱印」と呼ぶこともある。
1990年ごろに長野県松本市の松本城が販売を始めたのが最初とみられる。しかし注目されはじめたのは最近1~2年で、2019年に入ってから人気が急上昇した。今や松本城では、多い時に1日数百枚の御城印が出るという。
各地に御城印が広まったきっかけは、16年に発生し、熊本城などに甚大な被害をもたらした熊本地震だった。「売り上げの一部を熊本城の復興支援金として寄付する動きがあり、さまざまな城が発行するようになった」と話すのは、若狭国吉城歴史資料館(福井県美浜町)の大野康弘館長だ。
大野さん自身も全国の城を訪ね歩き、御城印を多数収集している。1月には約70点を展示する企画展「城コレ2019・早春」を開催した。織田信長が居城とした岐阜城や井伊家ゆかりの彦根城など、数々の御城印を集めた展示は反響が大きく、4月に一応終了してからも同館内で展示を続けている。

「城主の家紋やその城のキャッチフレーズなど、城ゆかりのデザインが施されていて面白い。安価なうえサイズも一定なのでコレクションしやすい」と、大野さんは魅力を語る。昨夏からは国吉城でも御城印の配布を始めた。同城は越前朝倉氏の猛攻に耐えたことで知られ、御城印には「難攻不落」の朱印が押される。平均して月に100枚ほど発行するそうだ。

城好きの間では公益財団法人日本城郭協会が制定した「日本100名城」や「続・日本100名城」を巡り、スタンプを集めて楽しむ人が多かったが、大野さんは御城印がスタンプに次ぐ城めぐりのきっかけになっているのではと考えている。「国吉城に来た人の中で『スタンプはすべて集めたから、今度は御城印のために全国をまわりたい』と話す人がいた」
令和改元記念の限定御城印も
期間限定の御城印も多数出ている。18年12月にパシフィコ横浜(横浜市)で開催され、2万人を動員したお城のイベント「お城EXPO」でも、御城印は目玉の一つだった。姫路城や松江城など、国宝5城のブースでは会場限定の御城印を配布したが、1日あたり100人分用意していた整理券が30分でなくなった。
今年5月には令和改元記念の限定御城印を発行する城が多かった。大阪城(大阪市)では平成最後の1週間と令和最初の1週間で、それぞれ5000枚の限定御城印を販売した。上田城(長野県上田市)では、ゴールデンウイーク期間中4時間待ちになったことも。城内には真田幸村などを御祭神とする真田神社があり、御城印と同寺の御朱印を併せて求める人が多かったという。
「同じ城が様々なバージョンを製作できるのも御城印の面白さ」と、城のポータルサイト「城びと」編集部の望月可奈さんはみる。例えば沼田城(群馬県沼田市)では、季節ごとに紙の種類を変えている。「城名の筆文字を地元高校の書道部に書いてもらう、地域の和紙を使うなど、どの城も趣向を凝らしている」
集めた御城印を、ずらりと並べ、SNS(交流サイト)に写真をアップする人も多い。このためコレクションのための御朱印帳ならぬ「御城印帳」も登場している。城びと編集部が4月に発行したオリジナル御城印帳は、予想以上の売れ行きという。
御城印は限定販売も含めると、これまでに120種類以上が発行されており、現在も増え続けている。数百円の手軽なレジャー。城に行った際にぜひ手に入れてみては。
(ライターかみゆ編集部・小沼 理)
[日本経済新聞夕刊2019年7月6日付]
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