2019年9月16日(月)

極めた神泡、全国酔わす サントリーのビール注ぎ師範
匠と巧

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/7/8 7:01
保存
共有
印刷
その他

ビールに泡は要るのか。いまも続く神学論争だ。ビールは最適な泡とともに楽しむもの――。滑らかな「神泡」が売りのサントリーホールディングスが終わらせたい議論でもある。そのためには顧客である飲食店に、ふさわしい注ぎ方を学んでもらわなければならない。大野浩さん(54)は注ぎ方に加え、教え方にも精通。グループ社員約4万人のなかで唯一の「ドラフトマスター」だ。

海外の飲食店経営者に「神泡」の注ぎ方を教えるドラフトマスターの大野浩さん=小幡真帆撮影

海外の飲食店経営者に「神泡」の注ぎ方を教えるドラフトマスターの大野浩さん=小幡真帆撮影

大野さんが左手で持ったグラスを専用サーバーに対して斜め45度に傾け、液体だけを一気に注ぐ。7分目まで満たすと垂直に戻し、注ぎ口とグラスを近づける。次にサーバーのハンドルを繊細な手つきで操り、ゆっくりと泡だけを注ぐ。熟練の技がクリームのようなきめ細かな泡を作り出す。「滑らかな泡がホップの華やかな香りを引き立てる」(大野さん)。競合がのどごしの良さを強調するなか、違いを打ち出すためにクリーミーな泡を売りにする会社の販売促進の方針とも重なる。

ビールは単純にグラスにつげばいいものではない。飲食店が客に提供する生ビールは注ぎ方や管理方法で味が大きく変わる。例えば、たるとサーバーをつなぐチューブの毎日の洗浄やグラスの自然乾燥といった基本動作も欠かせない。

きちんとした方法で提供してもらうため、営業社員は各店舗を指導する。大野さんはそのトップに立つ。もっとも人手不足で忙しい飲食店にすれば「なぜそんな手間をかけなければいけないのか」となる。講演会の参加者は生徒であると同時に自社の商品を買ってくれる顧客でもある。いかに気分を害さずかつ正しい知識を学んでもらうか。泡の伝道者としてのもう一つの顔の出番だ。

「徹底して相手の目線に立つようにしている」と大野さん。心がけるのは分かりやすさ。注ぎ方で味が変わることを体感してもらうために「泡が粗い失敗作を注ぐ練習もした」。

では「泡なし派」にはどう伝えるのか。オーストラリアなど特に海外では「ビールは泡なし」という文化を持つ国や地域も少なくない。同国で講演した際に相手を理解しようと現地の食文化を研究するなかで着目したのがカプチーノだ。コーヒーと同じようにカプチーノを飲む人が多い。「カプチーノは上の泡がおいしいですよね。ビールも同じです」。結果、相手を「泡あり派」に取り込めた。

大阪府東大阪市出身で「英語は話せない」と笑う。それでも気にせず関西弁で話す明るさとビールへのこだわりが国内外の参加者を引き付ける。2013年にドラフトマスターになってからは誰よりも早く出社して勉強を重ね、醸造などビールに関することも必死で研究した。

それでもいまも「学ぶことはたくさん」。最近ではビールの香りがどう変化するのか研究しているという。相手に自らの信念を伝えるには、なによりも知識の幅と深さを極めなければならない。大野さんはなお謙虚だ。

(渡辺夏奈)

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。