/

やるべきこと見えた 男女日本代表、実り多き敗退

6月のほぼ同時期、男子のサッカー日本代表はブラジルで行われた南米選手権(コパアメリカ)に、女子日本代表の「なでしこジャパン」はフランスで行われたワールドカップ(W杯)に参加した。男子は惜しくも得失点差でベスト8進出を逃し、なでしこは決勝トーナメント1回戦(ベスト16)でオランダに惜敗した。そろって道半ばで倒れたが、私は男女とも「実り多き敗退」だったと思っている。

足りないことを知った。やるべきこと、やれることも見えた。そんな6月だった。

女子のW杯は欧州勢の台頭が予想以上だった。特にイングランド、フランスの充実が目についた。

女子W杯準決勝の米国戦後、選手たちに話をするイングランドのネビル監督=ロイター

イングランドのフィル・ネビル監督はマンチェスター・ユナイテッドでサー・アレックス・ファーガソンの薫陶を受けた名選手だった。そういう経験のある人物を持ってきたこと自体、女子サッカーへの取り組みがイングランド・サッカーの中で変わってきたということなのだろう。準決勝で惜しくも米国に敗れたが、今後もライバル関係を築いていくに違いない。

日本は1次リーグでややもたついたが、ベスト8を懸けたオランダ戦は素晴らしいゲームをした。終盤はギアを上げ、オランダを一方的に押し込んだ。得点機を再三つかみながら、決めきれないうちに逆襲からPKを取られ、決勝点を許した。ベスト16が出そろった段階でトーナメント表を見て、私個人は「ベスト4まで行ける」と踏んでいたから本当に残念だった。

なでしこのパスワーク、十分に通用

なでしこのシュートが決まらなかった理由の一つに世界レベルのGKの質の高さがあるように思う。国内リーグなら決まるはずのシュートが決まらない。これはコパアメリカで悪戦苦闘した、メンバーで唯一の大学生だったFW上田(法大)にもいえることだろう。大学リーグとコパではGKが放つオーラに格段の差があり、シュートが入る感じがしなかったのではないか。

今回の女子W杯はプレーの高速化も顕著だった。身体的なスピードはもちろん、判断の速さが伴って、動き出しの速さも上がったように感じた。そういう部分も含めて欧州勢の伸長は脅威だった。

そういう列強に対し、なでしこのパスワークは米国や欧州勢にない独特なもので、十分に通用していたように思う。下を向く必要はまったくない。

日本の誤算は、宇津木(シアトル・レイン)や阪口(日テレ・ベレーザ)といった経験豊富な選手のコンディションが整わず、使えないまま終わったことではないだろうか。その結果、ピッチ上で主将の熊谷(リヨン)に負担がかかりすぎたように感じた。攻撃面で期待された長谷川や籾木(ともに日テレ・ベレーザ)をケガで十分に使い切れなかったのも惜しまれる。

来年の東京オリンピックは23人登録のW杯と違って18人しか使えない。選考も含めた準備段階から、初戦から決勝までフルに使える選手とそうでない選手の線引きをシビアにやらなければならない。

もっとも、頼れるベテランが使えない状況の下で、中堅や若手に出番が増え、貴重な経験を積ませることができた。来年のオリンピック本番をにらめば、選手層を厚くできたとポジティブにとらえるべきだ。U-20(20歳以下)W杯チャンピオンである遠藤(日テレ・ベレーザ)、南(浦和レッズ・レディース)らは得難い経験をしたことだろう。

あのドイツですら、ベスト4に入れず、来年の東京オリンピックの出場権を逃した。そういうハイレベルな大会では、ほんのわずかな差が勝敗を分け、ひいてはサッカー人生をも左右する。そんな厳しさを、若いなでしこたちが、ここで知れたのは来年のオリンピックに必ずつながる。ここから1年、彼女たちは猛烈に自分自身にドライブをかけるに違いない。

若い選手の吸収力で見事にリバウンド

男子の方は、南米の一部メディアから「由緒ある大会に日本は若い五輪チームを派遣してきた」と批判する向きもあったらしい。われわれには来年の東京オリンピックで表彰台の一番高いところに立つという大望がある。そのためにコパという真剣勝負の場をフルに活用させてもらったわけで、その程度の批判は甘んじて受けるしかない。

そもそも、批判は正確でもない。今回のチームは純然たる22歳以下(来年は23歳以下)の五輪代表ではなく、各ラインにGK川島(ストラスブール)、DF植田(セルクル・ブリュージュ)、MF柴崎(ヘタフェ)、中島(アルドハイル)、FW岡崎(レスター)というオーバーエージ(OA)の実力者を配していた。だからこそ1次リーグでウルグアイやエクアドルと引き分け、準々決勝に進む寸前まで行けた。実力的には、外野からとやかく言われるようなチームではなかったわけである。

今回は初戦に向けたコンディションづくりが難しかった。日本からの長旅、時差調整、過密日程、初めて顔を合わせる選手もいたチーム編成……。いろいろなことが未消化なまま前回王者チリと対戦し、0-4というスコアで大敗した。結果的に得失点差でベスト8に行けなかったことを考えると、この4失点は痛かった。

2戦目のウルグアイ、3戦目のエクアドル戦のリバウンドぶりは見事だった。若い選手の吸収力のすごさだろう。1戦目の反省を生かして、選手の距離感や立ち位置やプレスの掛け方を大きく改善させた。強い相手と真剣勝負を戦える醍醐味が若い選手の覚醒を促したといっていい。フレンドリーマッチでは到底起こりえないことであり、熱いうちに鉄を打つ最高の機会をもらった。

南米選手権のエクアドル戦で、競り合う久保建(右)=共同

その象徴が18歳の久保建(レアル・マドリード)で、主審や相手の選手とスペイン語で平気でやり合い、相手の挑発にひるむこともまったくなかった。あらためて、恐ろしいメンタリティーの持ち主だと感じた。新シーズン、新天地に選んだスペインでどれだけやれるか本当に楽しみだ。

若手が吸収力の高さなら、OA組はトータルな質の高さを見せつけた。柴崎も岡崎も川島も南米勢と堂々と渡り合い、持てる力をきっちり披露した。そういう実力者のたたずまいを普段の生活から学べる機会を今回は設けられた。現時点でOAの最有力候補といえる柴崎を中島、久保建、三好(横浜M)といった、イキのいい2列目と絡められたのも大きい。これは来年の東京オリンピックはもちろん、10年先まで生きる話ではないだろうか。

「コパアメリカでの戦いが、この10年の日本サッカーの礎になった」

そう言えるときが必ず来る気がしている。心から「ありがとう」とコパに対して言える日が。

VARに萎縮し、おびえているよう

最後に、今回のコパで一番気になったことに触れておきたい。審判というか、判定の在り方が妙になってきたことである。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)があまりに出しゃばり過ぎなのだ。そのせいで追加タイムが何分あっても足りない状況になっていた。そのうち8分、9分、10分という追加タイムがざらになり、試合が冗長になるのではないかと心配になったほど。

VARの対象をもっと絞らないと、いちいち試合が止まってテレビ画面にやたら主審が映るようになる。われわれが見たいのは主審の顔などではないのに。

VARによって副審のレベルが一気に落ちる心配もある。副審からプライドも奪うようになるのではないかと。オフサイドの判定にその兆候は既にあり、オンサイドだったものをオフサイドに取ってしまうことを恐れるあまり、副審が勇気を持って旗をあげるより、とりあえずスルーして後で機械に判定してもらうことを選ぶようになっている。

日本には2006年W杯の3位決定戦を任された広嶋禎数さんという世界に誇る副審がいた。VARは、こういう名人の数センチ単位でオフサイドを見極める職人芸を継承させずに、遅かれ早かれ、廃れさせる方向に導いてしまうのではないか。

副審だけではなく、主審もVARに対して萎縮し、おびえているように見える。女子W杯のオランダ戦の熊谷のハンド(PK)も決して故意ではないだろう。手をボールに当てにいったわけではない。それがスローで再生すると手に当たった事実だけがやたらクローズアップされてしまう。

サッカーの最大の魅力である、感情の爆発にもVARは水を差している。ゴールが決まっても、後でVARに取り消されると、ぬか喜びになる。それで素直に喜べない。シュートが決まっても「大丈夫?」みたいな感じで選手もファンも中途半端というか。

VARの課題と改善の余地がはっきりと見えた、コパアメリカだったと思う。

(サッカー解説者)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン