上場企業 政策保有株の削減一段と、富士通480億円超売却
企業統治の改善後押し
上場企業が金融機関や取引先との関係強化を目的とした政策保有株式(持ち合い株式)の削減を一段と進めている。2019年3月期は富士通が計85銘柄、500億円近い銘柄を売るなど、政策保有株の大規模な売却が相次いだ。LIXILグループの株主総会で株主側の経営陣が選ばれるなど、日本でも3割近い保有シェアを持つ海外勢を中心に株主の力が強まってきた。政策保有株の削減はこうした流れを加速させる見通しだ。

上場企業が6月28日までに金融庁に提出した主な有価証券報告書を調べた。
富士通はKDDIやみずほフィナンシャルグループなど85銘柄(482億円)を売った。前最高財務責任者(CFO)で副会長の塚野英博氏は「持ち合いに意味はない。今後も解消する方針」と話す。
取引先との関係維持を狙い政策保有株を多く持つ総合商社でも削減の動きが広がっている。
三菱商事は前期、保有していた横浜ゴムなどの株式7銘柄、計823億円分を売却した。前期末時点で保有する政策保有株は簿価で計6373億円に減った。三井物産は東京放送ホールディングスなど11銘柄、263億円分を売却。丸紅は日揮など13銘柄を手放した。
医薬各社の削減も目立った。小野薬品工業は24銘柄(149億円)を売却した。大和ハウス工業や堀場製作所といった関西企業の株式を多く保有していたが、事業との関係が薄い銘柄を中心に減らした。エーザイは大衆薬の取引強化のために保有していたセブン&アイ・ホールディングスなどを手放した。

上場企業が売却に動く背景には投資家の批判に加え、企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)などで政策保有株に関する開示ルールが厳格化したことがある。18年の改定指針は、削減に向けた方針を示すべきだと明記した。持ち合い先から売却の意向を示された場合、取引関係の見直しなどによって売却を妨げることも禁じた。
開示ルールも厳しくなった。今年の有価証券報告書では個別銘柄の開示がこれまでの30銘柄から60銘柄に増え、相手先が自社の株を保有して持ち合いになっているかどうかを開示しなければならなくなった。
政策保有株の売却などが進み、企業の日本株の保有シェアは18年度で21.7%と、1990年度(30.1%)から低下している。代わりに海外勢が18年度に29.1%と90年度(4.7%)から存在感を高めている。積極的な議決権行使などを通じて経営に影響力を及ぼす株主の割合が増えている。
野村資本市場研究所によると、日本株の時価総額全体に占める政策保有株の比率は17年度に9%強と初めて10%を下回った。同研究所の西山賢吾氏は「企業統治指針に背中を押され、金融機関に比べて遅れていた事業会社も削減に動いている」と指摘する。
ただ政策保有株の主体別内訳を見ると銀行が市場全体の3.7%の一方、事業会社は5.7%と相対的に高く、削減余地はまだ残っている。
取引先との関係維持や買収防衛などを目的に保有する株のこと。1960代ごろから広まった日本特有の仕組み。株式を相互に保有しあう「株式持ち合い」の形が多い。資産効率の悪化に加え、安定株主の確保を通じてガバナンスの欠如につながるため海外投資家を中心に反対が強い。18年改定の企業統治指針などで削減や保有理由の説明が要求されるようになった。

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