2019年8月20日(火)

今日も走ろう(鏑木毅)

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現役へのこだわり、アスリートが捨てぬ理由

2019/7/4 6:30
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この8月に世界最高峰のトレイルランニングレースであるUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)に再び挑戦する。ここ2年ほどは準備期間と位置付けてさまざまなトレーニングを試してきた。ただ残念ながらトレーニングをすればするほど、かつて世界3位を達成した体にはもう戻れないことを悟った。引退の2文字が頭をかすめるアスリートの多くが同じような思いではないかと思う。

世界の頂点を目指した頃は、世間の注目を浴びたいのはもちろんのこと、何よりまだ見ぬ先の景色を見たいという衝動に激しく突き動かされていた。その時感じたような気持ちは二度と味わえないと、キャリアの長いアスリートは感じていることだろう。しかし私に限らず近年は全盛期を過ぎても現役にこだわり続ける長寿アスリートが増えている。

なぜ現役にこだわる気持ちを抱き続けるのだろうか。そこには2つの点で共通点があるように思われる。

富士山の頂上に思いをはせながら箱根路で追い込む

富士山の頂上に思いをはせながら箱根路で追い込む

まずは創意工夫の楽しさだ。競技力が落ちても、あれやこれやと試行錯誤を繰り返し、伸びしろを見つけてはそのトレーニング方法を追求できる人。現代のスポーツ科学の進歩は目覚ましい。一昔前であれば到底現役では無理な年齢でも、さまざまな理論や器具を取り入れると力を維持できるようになった。これは科学者がまだ見ぬ森羅万象の法則を探るようなもので、ちょうど自分の体を実験台として研究するような感覚かもしれない。

もう一つは、練習で感じる苦しさやストレスを含め競技を心から好きであることだろう。トレイルランニングに出合った当初、私はまるでこの競技が自分のためにあるのではないかと思うほど楽しかった。そのうち国内にとどまらず世界のトップをめざして勝ち負けにこだわるようになるにつれ、常に大きなプレッシャーがのしかかり、純粋に楽しいとは思えなくなってきた。

とかく勝負の世界というものは競技本来の楽しさをも凌駕(りょうが)する高揚感と陶酔感が味わえ、麻薬的な魅力もあって人々は夢中になる。けれども、これだって「賞味期限」は案外短い。子どもの頃には熱中していたのにやがて身も心も疲れ果て、早々にアスリートとして幕引きする例が多々あるように。勝った負けたに一喜一憂するだけなら多くのアスリートが早晩うんざりすることだろう。ただ、競技の神髄に触れ、そこに魅了された者ならいつまでもそこをめざし続けたくなる。

もう人生最高のパフォーマンスは不可能だと悟っても現役を続行、緊張感とハリのある生活に身を置いているだけで、自身の潜在能力を全て発揮しているような幸せと充実感に満たされる。若いアスリートには理解できないかもしれない。こう思えるのはきっと若い頃に努力し、自分の中で最高と思える一定の境地にたどり着いた経験を積んだからこそ。

いつまでも現役にこだわり、今日も精進している。はたから見れば「よくやるよなあ」とあきれられるかもしれない。そう思われても当の本人には最高の日々なのだ。高齢アスリートのみなさん、ともに頑張りましょう。

(プロトレイルランナー)

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