2019年8月22日(木)

伊勢真一監督、渾身の記録映画「えんとこの歌」

文化往来
2019/7/7 6:00
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福祉の現場はきれいごとではない。障害者にとっても、介助者にとっても。そのことを誠実に見つめながら、人が生きることの意味を問いかける。映画「えんとこの歌/寝たきり歌人・遠藤滋」(公開中)はそんなドキュメンタリーであり、伊勢真一監督の渾身(こんしん)の一作だ。

伊勢真一監督「えんとこの歌」

伊勢真一監督「えんとこの歌」

1歳で脳性マヒと診断された遠藤滋(72)は、寝たきりとなった35年前から東京・世田谷のアパートで介助者の手を借りて自立生活を送っている。24時間体制の介護に集った人々は2000人を超す。「えんとこ」とは遠藤がいるところであり、縁のあるところの意味。遠藤の学生時代の友人だった伊勢は1999年にドキュメンタリー「えんとこ」を発表、その続編だ。

きっかけは2016年の相模原障害者施設殺傷事件。伊勢は「遠藤が心配になった」という。「役に立たない障害者はいない方がいい」と考えた犯人を異常者と決めつけ、社会がはらむ「優生思想」から目を背ける現状に違和感があったからだ。一方、02年から短歌を詠み始めた遠藤は、事件を受けて「やまゆり園」という連作を作った。「見知りたる男の刃物を振り上げて迫り来るをわが夢に見つ」。人ごとではないのだ。

映画は介助者たちの声を丹念に拾う。ある者は「憎み合ってんのか、ものすごい愛し合ってんのか……。どっちだ」と笑う。ある者は「紙一重だと思いますよね、でもね。でも"紙一重"って意外と厚いな、と思いますね」と語る。介助者も懸命に生きている。「なんの問題もなく平穏に暮らしてる人……、ひとりもいないですね」。それは画面の随所に映っている。

そんな介助者の支えになっているのが、すべてをさらけ出して生きる遠藤の存在だ。「全部見せてくれる人なんていないじゃないですか、まわりに」という介助者の一言が胸に迫る。

(古賀重樹)

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