2019年9月19日(木)

駅のベンチ90度回転 酔客の向き変え転落防ぐ
とことん調査隊

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/7/2 7:01
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駅にあるベンチは線路の側を向いているのが一般的だ。向きを90度回転させた「直角ベンチ」を関西でよく見かけるようになった。その背景を探ってみた。

JR大阪環状線の鶴橋駅(大阪市)。周辺に焼き肉など飲食店がひしめく。終電間近のホームでは、ほろ酔いでベンチで眠りかけた乗客が、急に立ち上がり、前に進もうとする姿が時折、目に付く。

ホームの前後の端にある同駅のベンチ。座る向きが電車の進行方向と同じ向きになっている。このため、立ち上がった酔客は前のベンチにぶつかるか、ホームに沿って進む。線路方向に歩き、転落することはなさそうだ。

直角ベンチが増えているのはなぜか。JR西日本の担当者に聞いた。

同社が示したのが、国土交通省の資料。2002年度から13年度の間に、転落などホームでの鉄道人身傷害事故はほぼ倍増し、酔客によるものは約6割を占めた。JR西の場合、ホームでの鉄道人身傷害事故は13年度に6件(うち酔客は3件)、14年度に3件(同3件)、15年度に3件(同3件)と酔客の割合が高かった。

「大阪市交通局(現在の大阪市高速電気軌道=大阪メトロ)の協力を得て、当社の安全研究所が酔った乗降客の転落などの映像データ136件をもとに行動特性を分析した。ベンチにうずくまって座っている人は、立ち上がった時に反動で何のためらいもなく真っすぐ進んでいくという行動パターンが見えてきた」(同社鉄道本部駅業務部企画課の高橋和也さん)

分析ではホーム中央部にいる酔客がホームを横切る短い方向に歩行し、ホーム端で足を踏み外して転落するケースが57%を占めたという。

「だったらベンチの向きを変えてはどうか」。分析をもとに、駅業務部が酔客の転落防止策を協議、ポスターなどによる啓発、主要駅での警備員の配置、遠隔セキュリティーカメラの開発などとともに打ち出したのがホームベンチの設置方法の工夫だった。

15年1月、転落の多かった新大阪駅で直角ベンチを導入したのを手始めに、これまでにJR西管内全駅の3割強の372駅で採用している。「安全上ホームベンチを固定しているアンカーを一回外して向きを変えて付け替えるだけなので、費用もそれほどかからない」(JR西)

もちろん、ホーム形状や駅の混み具合によっては、ベンチを直角にすると、乗降客の流れを妨げるなどの問題が生じる駅もある。

JR伊丹駅に行くと、4人がけなどのベンチが線路とは反対の外側の柵に向かって並ぶ光景が見られる。ベンチを180度回転させるパターンだ。「伊丹駅のように外に柵があり、ホームの幅が狭い駅はベンチを外側に向けてしまえば転落しないと考えた」(高橋さん)

JR西管内の酔客の転落件数(人身傷害事故除く)は13年度に145件だったが、18年度は121件になった。

他の鉄道各社もそれぞれの事情に合わせて直角ベンチを取り入れ始めている。

大阪メトロ御堂筋線の動物園前駅。ここは壁に沿って、1人がけのベンチが進行方向に並ぶ。「ホームの形状などから最初から1人がけベンチを直角に設置した」(広報)

阪急電鉄は西宮北口駅など酔客の多くなる車庫のある3駅で導入した。「今後様子を見て展開を考える」(広報)

大阪府吹田市から大阪市内に通勤する化学会社勤務の平尾元さん(56)は営業という仕事柄、夜の酒席も多い。「直角ベンチは柔軟で新しいもの好きの関西ならではの発想だ。鉄道会社の安全意識が強く、自らも安全を心がけようという気になってくる」

(野間清尚)

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