2019年7月22日(月)

習氏の軍改革「中国の夢」実現へ(The Economist)

The Economist
2019/7/2 2:00
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この10年、中国は人民解放軍に多額の予算と兵器を投入してきた。軍事費は2009~18年の間に実質ベースで83%増え、主要国では群を抜く高い伸び率となった。かくして中国は西太平洋で米国の覇権に対抗すべく精密誘導ミサイルや人工衛星攻撃兵器を配備した。習近平(シー・ジンピン)国家主席が自らが掲げる「中国の夢」の一つが「強力な軍隊」だ。35年までに軍を近代化し、50年までに「世界トップクラス」に引き上げるという。つまり、米を打ち負かす水準にするということで、習氏はその目標達成に向け着実に前進している。

習主席は、軍事費を増大させると同時に、米国に倣い陸海空を地域ごとに統合する組織改革を進めてきたが、その効果を疑問視する向きもある=ロイター

習主席は、軍事費を増大させると同時に、米国に倣い陸海空を地域ごとに統合する組織改革を進めてきたが、その効果を疑問視する向きもある=ロイター

マッハ5で飛ぶミサイルや無人貨物機、電磁加速砲(いずれも中国は昨年実験した)に比べ、組織改革は目立たないかもしれない。だが、習氏は時代遅れの軍隊に高価な兵器を与えてもほぼ無意味だと理解している。人民解放軍は冷戦時代、ソ連軍や米軍が侵攻してきて大規模な地上戦になっても撃退できるよう進化した。膨大な数の歩兵隊により消耗戦で敵を壊滅させるはずだった。だが中国指導部は、1991年の湾岸戦争で米が見せた戦闘能力の高さに危機感を募らせて以来、「ハイテクを駆使した局地戦」を戦うための能力の向上に注力すると決めたのだ。

■米軍をまねて陸海空の統合目指す

彼らが想定していたのは地上部隊と同等に空軍と海軍の力が物を言う、台湾など中国周辺地域での短期の激しい戦闘だ。習氏はそうした戦闘に勝つには人民解放軍の構造を変える必要があると判断し、この3年間、鄧小平氏以降のどの最高指導者よりも多くの軍改革を進めてきた。

習氏の最重要目標は「統合性」の向上だ。これは欧米の軍事用語で、陸海空軍すべての能力を一つに統合し、戦場で素早く一体となって行動し、力を発揮することを指す。海外での戦争では、この統合性が特に重要となる。遠い自国の本部にいる司令官らが兵士や水兵、パイロットの動きを統制していくのは時として難しい。上層部からの指示が来なくても、陸海空軍が協力して戦える必要がある。

中国が模範とする米国は、86年のゴールドウォーター=ニコルズ国防総省再編法に基づき、統合性を高める大胆な軍改革を進めた。米国防総省は、世界を7つの地理的範囲に分割し、米軍を各地域の責任を持つ7つの統合軍に再編した。これで陸海空軍の間の争いはなくなった。ペルシャ湾や太平洋など各地域に駐留する全ての軍人は、その統合軍司令官1人の指示で行動することになった。

習氏もこれにならった。改革前は、中国には7つの軍区が存在し、各軍区の陸海軍司令官がそれぞれ本部に報告していた。そのため陸海軍間の相互調整は無いに等しかった。だが2016年2月に軍区を5つの「戦区」に再編し、それぞれに司令官1人を配置した。江蘇省南京が本部の「東部戦区」は台湾や日本との戦争などに備え、四川省成都に本部を置く広大な「西部戦区」はインドに対応し、広東省広州が拠点の「南部戦区」は南シナ海を担当する。

これら地理的戦区に加え米国の弱点を突くため、15年には戦区をさらに2つ新設した。米軍の通信は人工衛星やコンピューターネットワークなどハイテク手段に依存している。そこで習氏はこれらのシステムを標的とする「戦略支援部隊」を立ち上げた。宇宙戦、サイバー戦、強い電磁波を攻撃に使う電子戦や心理戦を担当する。同部隊は18年に、米国防総省が「複雑な電子戦環境」と呼ぶ状況で人民解放軍の5つの部隊と演習をした。また習氏は、アジアに駐留する米軍が各国の米軍基地と空母からなるネットワークに依存しているため、これを標的とするロケット軍も創った。かつて第2砲兵軍団という地味な名前だった部隊をアップグレードさせたのだ。

■今は現場の判断が重要だが、習氏は集権的

習氏は多数いた下士官の数も減らした。人民解放軍の兵力はまだ200万人強に上るが、15年以降、陸軍を中心に30万人を削減。陸軍は将校の3分の1を失い、人民解放軍全体の人数に占める割合は70%から50%以下に減った(幸運にも削減対象とされていた舞踊団は残った)。対照的に海兵隊の人数は3倍に増え、海軍と空軍は2戦区の司令官を含め、多くの重要ポストを得た。この改革は、人民解放軍が海と空を重視し始めたことを示している。

ただ、中国は40年間戦争をしていないので、戦闘熟練度が上がったか判断するのは難しい。最後の大規模紛争となった79年の中越戦争に従軍した兵士はもうすぐ退役する。

だが、統合性が向上している証拠はある。中国は台湾周辺や南シナ海で戦闘機を頻繁に飛行させるなど領域外活動に力を入れているが、これは空軍と海軍の調整の深化を示す。ワシントンにある米国防大学のフィリップ・ソーンダース氏は「各軍は頻繁に合同訓練をし、組織的な問題点を解決し、互いがより結束して戦えるようにしている」と指摘する。中国の軍事演習は従来は台本通りにやっていたが、英シンクタンク国際戦略研究所のマイア・ノーウェンス氏によると、最近はどれだけ現実的な作戦を展開できるかで士官は評価されるという。習氏の改革以前は、毎年内モンゴル自治区で実施される大規模演習で敵役を務める「青軍」は必ず負けていたが、今は勝つのが常となった。

とはいえ中国軍は複雑な戦闘には依然、準備不足かもしれない。米国では士官の昇進は、他の軍と協力する能力で決まる。中国では1つの軍、1つの地域、場合によっては1つの任務しか経験しない軍人が多い。政治的文化の違いも問題となる。「中国は西側諸国の軍隊をモデルに改革しようとしているが、それらの軍の構造には開放性や権限委譲、協力が浸透している」と18年に米海軍太平洋艦隊司令官を退任し、今はマサチューセッツ工科大学で教えるスコット・スウィフト氏は話す。サイバー戦や電子戦では司令部と部隊の通信が遮断されることがあるため、現場で決定することが今の戦いでは要求されるという。「民主主義の原則に基づいて作られた軍隊の方が、こうした環境にはうまく対応できる」と同氏。

習氏は、統治の集権化を求める強権的指導者だ。ソーンダース氏によれば、習氏の前任者、胡錦濤(フー・ジンタオ)氏は人民解放軍を掌握していなかったが、それは胡氏の前任の江沢民(ジアン・ズォーミン)氏が軍に関する最高意思決定機関である中央軍事委員会の副主席を2人指名したためだという。2人は胡氏の在任中ずっと在職し、軍を改革して蔓延(まんえん)する汚職や規律違反を正そうとする試みを妨害し続けた。

■退役軍人らは不満募らせるが、若手軍人は習氏を支持

習氏は同じ轍(てつ)を踏まない決意だ。同氏が進めた反腐敗運動で1万3000人以上の軍人が摘発された。習氏は中央軍事委のメンバーを11人から7人に減らし、陸海空軍のトップを外して反汚職担当の将校を加えた。同委員会は中国公船を管理する海警局を吸収した人民武装警察の指揮権も与えられた。

予想されたことだが、軍の再編は怒りも招いた。特権を奪われた将校は苛立ち、失職した兵士らが街頭で不満をあらわにすることもある。16年に習氏が退役軍人省を設立した一因はこれだ。だがノーウェンス氏は、若手軍人は能力主義に基づく昇進で恩恵を受け、国産の映画やテレビ番組で人民解放軍が大きく取り上げられることに誇りを持ち、習氏の「偉大な中華民族の復興」を称賛しているという。

10月1日に予定されている建国70年を祝う盛大な軍事パレードは彼らの見せ場となる。習氏の改革開始後初めて北京で行われるパレードでもある。世界レベルのパフォーマンスが見られるだろう。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. June 29, 2019 All rights reserved.

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