Aimer 自分の色残しつつ曲に染まれる(川谷絵音)
ヒットの理由がありあまる(11)
前回「セカオワ あえてシティーポップやる意味」で書いたSEKAI NO OWARIについての論評は、メンバーのNakajinから記事の写真まで送られてきて恥ずかしかったです(笑)。でも本人に読んでもらえるのはうれしい!これからも分かりやすく面白い読みものになるよう頑張ります。というわけで今回は、Aimerの『I beg you/花びらたちのマーチ/Sailing』について解説します。

Aimerというアーティストは、まず歌が本当にうまい。本気でうまいと思う。遡れば(RADWIMPSの野田)洋次郎さんが『蝶々結び』(2016年リリース)という楽曲を彼女に提供し、それで僕は存在を知った。洋次郎さんの曲の良さを最大限に引き出せる歌声だと思った。力強さもあるのに、どこかはかない息混じりの声が僕の中にスッと入ってきて、まさに歌い手と作り手が寄り添い合った、素晴らしい名曲に仕上がっていた。そして、その後に発表した楽曲たちも良いタイアップの取り方を常にしているし、歌の力も強い上に、彼女自身が過度な露出をしないところも謎めいていてすごく良い。
ただ誤解を恐れずに言わせてもらうと、『蝶々結び』以上の曲は、まだ生まれていないと思う。他のクリエイターは、洋次郎さん以上にAimerの声を生かせていないと個人的には思っている。しかし彼女のすごさは、誰がどんな曲を作ったとしても、心地良いトーンにしてしまうところだ。例えばシンガーソングライターという生き物は、自分で自分に合う曲を作る。一方、シンガーは与えられた曲を歌うために、その曲に染まりきらないといけない。これが難しい。自分の色を殺される危険性があるからだ。でもAimerは、どんな曲にも染まれる上に、確実にその中にAimerという存在感を残す。
今回の『I beg you』はとても難解な曲だが、誰が聴いてもAimerだ。そして今作は何よりもメロディーが素晴らしい。特にCメロの「しんしんとかなしみだけがふりつもる」から始まる部分。それまでは異国感あふれるメロディーが続くが、このCメロから一気に日本の演歌的な歌謡曲メロディーが現れる。この部分に僕はハッとした。ここを聴きたいがために何度もリピートをしてしまい、リピートをしているうちに他の部分まで好きになっていた。
このような歌謡メロディーは、これからJ-POPのトレンドに入ってくるのではないかと思っている。米津玄師の『Flamingo』(18年10月発売)や、エレファントカシマシ宮本浩次さんのソロデビュー曲『冬の花』(19年2月発売)もそうだが、時代を遡ったような歌謡曲的メロディーが最近数多く登場しているのだ。「時代は繰り返す」とはよく言ったものだが、今になってそれが逆に新しい風となっている。レコードやフィルムカメラが、若い子たちの間でまたはやったりしているのも同じで、"時代の繰り返しポイント"を敏感に感じ取って表現することが、アーティストには必要な能力なのだ。それがトレンドを作る。
"海外のブラックミュージックやヒップホップに歌謡曲的メロディーを載せる"、これが僕が思う今後のトレンドだ。『Flamingo』はそれを先立ってやっていた。米津玄師恐るべし。というか、Aimerが米津作曲の歌を歌ったら確実にメガヒットすると思うのですが、どうでしょう?というか、僕もAimerが映えそうな曲を作れるんですが、どうでしょう(笑)? まあそんなことはさておき、Aimerは素晴らしい歌い手だ。どんな曲にも自分の色をちゃんと残しながら染まれる。
この前JUJUさんと飲んだ時に、JUJUさんが言っていた。「その曲に染まるのが楽しい」的なことを。酔っていたので正確に覚えていなくて申し訳ないのだが(笑)、 染まり方も人それぞれ。歌は無限にある。これからもAimerの歌が楽しみでしょうがない。

[日経エンタテインメント! 2019年6月号の記事を再構成]
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