ヤフーやLINE、スマホ決済「ばらまき」の原点
日経ビジネス

コラム(ビジネス)
2019/7/2 4:30
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ゲームや決済、配車アプリなど国内でも中国発のITサービスが浸透し始めた。百度(バイドゥ)、アリババ集団、テンセント(騰訊控股)の「BAT」を代表とする中国IT勢は、人口14億人の母国市場で磨かれたアイデアや技術力を世界に広げようとしている。

中国のIT大手に共通するのは、サービスを無料化して数多くの利用者を集め、一気にプラットフォーマーの座を奪う破壊的イノベーションの手法だ。「BAT」が中国で実践したこのやり方が日本にも波及している。

「ヤフーショッピングヘの出店料を無料とし、日本で最大のインターネット通販の場を作る」。2013年10月、ヤフーの親会社であるソフトバンクの孫正義会長兼社長はこう宣言した。

当時、ネット通販では楽天やアマゾンジャパン(東京・目黒)との差が大きかったヤフー。そこで始めたのが、同社のネット通販「ヤフーショッピング」の手数料を無料とする「eコマース革命」だ。この手本となったのがアリババだ。同社のネット通販「淘宝網(タオバオ)」では、中小規模の商店や個人が出店しやすいよう手数料を無料としていた。

楽天ならばシステム手数料や月額料金などで数%程度の出店手数料がかかる。ヤフーも同様に有料としていたが、こうした料金をタダにすることで出店者を増やし、ヤフーショッピングでの商品数を拡大する戦略に打って出た。「まさか無料化するとは思っていなかったので、ヤフーの勢いには驚いた」(楽天OB)という。結果、無料化によりヤフーショッピングの出店者数は拡大し、約8000万品目しかなかった商品は約3億品目まで増えた。

手数料はインターネット事業者にとり、利益の源泉だ。目先の利益を捨ててでもプラットフォーマーの座を何が何でも取りにいく。こうした手法はアリババやテンセントなどが先行するスマホ決済でも同様だ。

■お年玉キャンペーンが発端

中国で発端となったのは、テンセントが14年、SNS「ウィーチャット」で始めたキャンペーンだ。「微信紅包」と呼ばれる、ウィーチャット上でお年玉を知人に送金できる機能だ。例えばグループチャット上でユーザーが200元分のお年玉を送信すると、もらえる金額が一人目は20元、二人目は10元など金額が異なる。

中国ではテンセントなどの決済サービスを通じた「デジタルお年玉」が普及 (写真:Imaginechina/アフロ)

中国ではテンセントなどの決済サービスを通じた「デジタルお年玉」が普及 (写真:Imaginechina/アフロ)

遊びの要素を持たせたことで、スマホ決済の「ウィーチャットペイ」に自然とお金がたまる。たまったお金を使うために、ウィーチャットを使う。それまでスマホ決済でのシェアが約8割と圧倒的だったアリババの「アリペイ」の牙城を崩し、いまやスマホ決済ではアリババとテンセントの2強がシェアを分け合う。

以降、アリババやバイドゥも旧正月の「紅包(ホンパオ)=お年玉」向けに還元キャンペーンを導入し、ユーザー獲得のための「ばらまき」競争が激しくなった。最近では日本で「Tik Tok」として知られる北京字節跳動科技(バイトダンス)など動画サービスでもこうした還元キャンペーンが広がっている。

今、日本で激しい先陣争いが起こっているスマホ決済市場も中国での動きを踏襲しつつある。ヤフーとソフトバンクが出資するPayPay(ペイペイ)が18年12月、利用者に総額100億円分のポイントなどを還元するキャンペーンで火蓋を切ると、家電量販店などに利用者が殺到する「ペイペイ祭り」と呼ばれる現象が起きた。システム障害や不正利用なども発生したものの、ペイペイは知名度を高めることに成功し、スマホ決済の主役争いに名乗り出た。

スマホ決済で先行していたLINEも対抗策を繰り出した。5月末、300億円相当分を上限としてLINE上の友だちに1000円相当の「LINE Payボーナス」を送信できるキャンペーンを始めた。タダで1000円分のボーナスがもらえる手軽さから、送付人数は約2000万人を超えた。

ペイペイをはじめとしたスマホ決済各社は、一部の決済手段について加盟店からの手数料を期間限定で無料としている。クレジットカードをはじめとした既存の金融サービスからの転換を促すのが狙いだ。

インターネット大手が仕掛ける無料化やばらまきキャンペーンで、資金力で劣るスタートアップは退散を余儀なくされ、中国と同様にあらゆるサービスが巨大企業に集約される可能性は高い。利用者にとっては同じようなサービスが乱立するよりも有力サービスに集約されるほうが利便性は高いかもしれないが、データ収集を手がける企業が偏るなどの新たな問題もはらんでいる。

(日経ビジネス 大西綾)

[日経ビジネス電子版 2019年7月1日の記事を再構成]

日経ビジネス2019年7月1日号特集「敵か味方かBAT」では、「デジタル先進国」へと突き進む中国政府の動きやそれに対する脅威論、さらに日本企業の進むべき道などを検証した。

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