都市の孤独、未来を渇望(演劇評)
南河内万歳一座「唇に聴いてみる」

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/6/28 7:00
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南河内万歳一座が1984年初演の代表作「唇に聴いてみる」を再演(6月12日、大阪市の一心寺シアター倶楽で所見、内藤裕敬作・演出)。肉体表現を駆使した痛快な群像劇だが、都市の孤独と閉塞感が初演以上に際立った。

観客を巻き込むようなエネルギッシュな演出=谷古宇 正彦撮影

観客を巻き込むようなエネルギッシュな演出=谷古宇 正彦撮影

団地に独り住まいする男(鈴村貴彦)が、近所の空き家の不審火を通報。刑事達から、放火犯を見たのではないかと疑われる。それをきっかけに、子供の頃は奔放な想像力で、見えないものでも見えた自分を思い出す。新しい自分に生まれ変わりたい男は、想像力を奮い立たせる。

鮮やかな空想の世界が立ち上がる。団地のスーパーに客を取られた商店主達が、集客に向け、躍起になる挿話を、西部劇仕立てで滑稽に展開。小学校の運動会を追想する場面では、客席を巻き込んでの玉入れで大盛り上がり。リレーは、スローモーションを効果的に用い、力強さを演出。

想像の世界が楽しければ楽しいほど、現実に戻った場面が切ない。「今は何も見えません」と呟(つぶや)く男。近隣住民から孤立し、団地内のトラブルはすべて彼の仕業と疑われる。夥(おびただ)しい数の空き缶が、押し入れや天井から彼の部屋になだれ込む演出は、現実に押しつぶされる様を暗示。鈴村貴彦が、未来への希望が見えない孤独な男の焦燥と喪失感を、緻密な心理描写で熱演した。

個人主義が加速した初演時。35年を経た今、地域から孤立する人があまりに多くはないか。40~64歳のひきこもりの人が61万人。格差も広がる。主人公が、社会から取り残された人々の象徴に見えた。最後に、男は隣室の扉を激しく叩(たた)く。人とつながり、見えない未来を見ようとする渇望が痛切に伝わった。

(大阪芸大短期大学部教授 九鬼 葉子)

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