教授起業「医療ロボに続け」 筑波大学
筑波大学はスタートアップ企業を生みだす知られざる名門だ。2018年度の調査で確認された企業数は111社に及ぶ。バイオ・ヘルスケア関連が3割を占め、人工知能(AI)やゲノム編集といった先端技術を応用する。医療・介護用の装着型ロボットを開発するサイバーダインを先頭に教授らが相次ぎ創業、社会を変えようとしている。
■スイミン AIで睡眠検査

「日本人の5人に1人は不眠症といわれる。医療機関や企業に検査を提供したい」
柳沢正史教授(59)が社長を務めるS'UIMIN(スイミン、茨城県つくば市)は、AIを活用した睡眠の検査サービスを開発する。利用者が装置を付けて寝ると、スマートフォン経由で脳波のデータが解析される仕組みだ。20年9月期にもサービスを始める。
柳沢教授は眠りを制御する脳内物質「オレキシン」を発見した睡眠研究の第一人者。「将来は膨大な人間の脳波が資産になるだろう」。AI、ビッグデータ、ヘルスケアをかけ合わせた事業に可能性を見いだす。
筑波大発のスタートアップ社数は18年度まで3年連続で東京大、京都大に次ぐ3位となった。大阪大や東北大をやや上回り、ベンチャーキャピタルなども注目している。
111社のうち6割は教員が創業者となっている。14年に東証マザーズに上場したサイバーダインが教員にも学生にも刺激を与えている。山海嘉之教授(61)が04年に創業した同社は、いま世界で事業を展開している。
■ゲノム編集技術でトマト
江面浩教授(59)は18年、サナテックシード(東京・港)を創設した。19年中に発売を目指しているトマトは、ストレス軽減や血圧降下に効果があるとされるアミノ酸の一種、GABAを多く含んでいる。遺伝子を効率良く改変できる最新のゲノム編集技術によって開発した。「まずは学内で数トン単位で生産する」
免疫細胞を研究する渋谷彰教授(63)が18年に設立したのはTNAXバイオファーマ(つくば市)だ。製薬大手から「それだけ研究成果があるならつくったほうがいい」と促された。最高科学責任者として研究開発を主導し「半年から1年でターゲットとする病気を見極める」と話す。
教員が経営するスタートアップは研究・教育との両立が課題となる。スタートアップの設立と経営を持続させるには、実際の運営などを任せられる専門人材を活用することが鍵となる。
筑波大発スタートアップの18年度の資金調達額は50億円で、17年度に比べ3.5倍となった。メディアアーティストとして知られる落合陽一准教授(31)が社長を務めるピクシーダストテクノロジーズ(東京・千代田)は19年4月にINCJ(旧産業革新機構)などから38億円調達した。
■学長「米投資家とつなぐ」
スタートアップの多い筑波大学だが、米国の大学との差は大きい。国内でも大学間で資金獲得の競争が激しくなる。起業をどう支援するか、永田恭介学長に聞いた。
――スタートアップの設立が続いています。
「(学問の枠を超える)学際性という大学のDNAが基盤にある。だが、5月に行った米国のシリコンバレーは衝撃だった。スタンフォード大学の学生の3分の1程度はスタートアップを経験している。筑波大は2%ぐらいだ」
――米国との違いは何でしょうか。
「大学の対応も優れていて、何年でも休学でき、安心して挑戦できる。マインドが全然違う。スタンフォード大は(資金を共同運用する)コモンファンドの利子などで東京大学の(国が出す)運営費交付金と同じ程度。こういう投資が自由にならないと、日本の大学が大きなスタートアップを育てるのは難しい」
――起業をどう促していきますか。
「日本は個人が資金を投じるエンジェルが弱く、大学の中で学生が起業を担っていくには限界がある。シリコンバレーやボストン、カリフォルニア大サンディエゴ校の3カ所に芽が出そうな人を送り、エンジェルなどとつなぐ。海外からの投資を増やすことで、投資家の目を開かせる」
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