肌色1200種、生活映す質感 工房アルテの人工ボディー
匠と巧

関西タイムライン
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2019/7/1 7:01
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机の上に並ぶ「手」や「足」。血管が青く浮かび上がる手にはシワとともに年配者の記憶も刻まれてるかのよう。キズ一つないふっくらした小ぶりな足は純真無垢(むく)な赤ちゃんのものだろう。全て工房アルテ(大阪市北区)が作る人工ボディーだ。そこにはシリコーン製の無機質さはなく、持ち主の人生を想起させるほど精巧だ。

シリコーンで作った人工の手。依頼者と何度も面談し形や色、使う季節や状況まで考慮する=松浦弘昌撮影

シリコーンで作った人工の手。依頼者と何度も面談し形や色、使う季節や状況まで考慮する=松浦弘昌撮影

工房アルテは義肢メーカー、川村義肢(大阪府大東市)の職員6人が働く。先天的な要因や事故などで体の一部がない人に人工ボディーを特注で作る。これまで約3500人の依頼に応えてきた。目的は機能の復元ではなく、見た目を整えること。そのために3週間から半年かけ質感と色を依頼者の体にマッチさせる。

質感は緻密な造形によるものだ。実物大模型を作るために素材を工具で削り、骨の隆起などを再現する。細かな作業を繰り返し、依頼者の肌の質感に近づける。次に実物大模型から型を取り、シリコーンを流し込む。ここで取りかかるのが色づけ作業。人間の肌の色は均一ではない。手ならば15色程度を組み合わせる。同工房が生み出した約1200種類の肌色から依頼者にあったものを選び、シリコーンに練り込む。

単に色や質感をまねるのではない。技師たちは依頼者の要望を聞き、使う場面を確かめてから作業に取りかかる。例えば手は置く位置次第で血圧が上下し色も変わる。「面接では膝に置くから赤っぽく、(板書などで手をあげる)先生なら青白っぽい色味に整える」。主任技師の福島有佳子さん(48)はこう説明する。

福島さんが人工ボディーの製作を始めたのは20代の頃。耳を失った男性向けが最初だった。確たる手法がない当時、参考にしたのが映画の特殊メークだ。とあるスタジオに電話で事情を説明し、材料や作り方を教えてもらった。

元来ものづくり好きだった福島さんはリアルさと使いやすさを突き詰めていく。一方、依頼者と向き合うなかで「モノだけでいいのか」との疑問も湧いてきた。ある依頼者が「皆に見られている気がする」と人工ボディーを受け入れてくれなかったのだ。許可を得て撮った写真を他の顧客に見せ、その感想を伝えた。「見た目ではわからない」という声を聞くうちに、その人はボディーをつけて外出するようになった。

「人の心は難しい」。福島さんはカウンセリングも学び、今は依頼者との対話を重視する。なぜ必要なのか、本当に必要なのかというところにまで踏み込む。

人工ボディーは使う人の見た目だけでなく、行動や考えまで変えることがある。「"この手"なしにはなにもできない」と言う人もいれば、他人はそれほど自分を見ていないと気付き「必要ない」と着用をやめる人もいた。「他人の人生に短期間で入り込むからしんどい時もある。でもお客さんに応えたい」(福島さん)。人工ボディーには依頼者に向き合う職人の思いも込められていた。

(香月夏子)

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