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「これぞ天職」レースの力でまちづくり

現在、私は現役選手であるとともに年間で8つのトレイルランニングの大会に関わり普及に努めている。大会づくりにおいては地域が開催をメリットとして感じてもらえるようにしたいというこだわりがある。このように考えるのも15年間を県庁職員として勤めたからだろう。

県の仕事は多様であり、私は公共用地の買収、人事管理、経理、都市計画などの業務に携わった。なかでもまちづくりの仕事ほど面白さを感じ、情熱を傾けた仕事はなかった。この仕事はさびれた温泉地や商店街、廃校などを再利用によって活用し、それぞれの地域が抱える課題を市町村とタイアップして解決する。

初めて参加したまちづくりの住民会議は、閑散とした商店街をいかに盛り上げるかが議題だった。会議が始まると発言は限られた人だけで、途中で行政の案が出されると紛糾し、会議はこの一件とは関係のない行政批判へと変わっていった。これでは住民の思いを十分にくみ上げられないだろうから、もっといい方法はないのかと頭を悩ませた末、ワークショップ形式で住民の思いを集約しようと各方面を奔走した。

海外遠征で訪れた街でまちづくりのヒントを求めて歩く

このやり方では、行政側で特に結論を用意しない。住民の方々を5~6人のグループに分け、グループごとにファシリテーターという意見のまとめ役がついて、模造紙上にさまざまな意見を書いた付箋紙を貼り付けながら自由に案を出す。最後に各グループの意見を発表し、全体のまとめ役であるコーディネーターが会議全体の意見を集約する。

行政側も予算や法制面での制約、構造的に不可能なことも住民に伝えることができ、実現可能な案をより多く提案してもらえる。もちろん、全てがこの手法でうまくいくわけではないけれど、住民が和気あいあいと話し合いながら地元の良さを再認識し、地域が住民主体で少しずつ活気を取り戻していく姿を見ることは何よりも楽しかった。その後も「自分たちが考えたもの」という誇りや愛情を持ち続ける人が中心になり、地域を盛り上げようと努めてくれた。

そんな経験があるからか、私はトレイルランの選手として全国各地に遠征する際には、まちづくりに成功した先進事例の土地に足を運ぶ。時にはそのキーマンに直接話をうかがいながら見識を学ぶうちに、私にとって天職とはこれだと思い、この前向きな気持ちで一生仕事と向き合えたらどれほど幸せだろうと思った。

今考えてみても、まちづくりという取り組みに仕事であることを忘れ一心不乱に頑張れたのも、心のどこかに仕事とは報酬の多寡にかかわらず夢中になれるものであるべきだという理想を少なからず抱いていたからに違いない。人事異動で4年でその職場からは去ったものの、40歳で県庁を辞しプロトレイルランナーになった時もこの高揚感を忘れることはなかった。

トレイルランの選手と大会の企画運営という二足の草鞋(わらじ)を履くことで、レースの開催地に活気を呼び起こすようなまちづくりに貢献したいと最大限努力している。

(プロトレイルランナー)

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