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7人制男子、「降格」に見えた課題と進歩

東京五輪のメダル獲得を目指すラグビー7人制の男子日本代表が岐路に立たされている。国際大会ワールドシリーズ(WS)の全大会に出場できるコアチームから降格。強豪国との対戦機会が減り、強化策の修正を迫られている。プレーの中身には光明が見えるだけに、この1年間の過ごし方がより大事になる。

6月頭に行われたWSの最終戦、パリ大会。逆転でのコアチーム残留はほぼ手中にあった。1次リーグ3戦目、格上のスコットランド戦に勝てば8強に進み、総合順位で残留圏の14位に入ることができた。

パリ大会1次リーグのスコットランド戦では健闘を見せたものの、ラストワンプレーで逆転された(日本ラグビー協会提供)

残り1分、日本はラインアウトの相手ボールを奪うと、キックパスを交えた見事な攻撃でトライ。土壇場で逆転に成功した。あとは直後のキックオフからボールを再確保し、タッチラインに蹴り出せば試合終了だった。

このラストプレーでミスが出る。中盤の相手ボールの密集に日本は複数人を投入。リスクを取ってボールを奪いにいったが、逆に反則を犯してしまう。防御ラインの人数が減ったままスコットランドの速攻を受け、そのまま再逆転を許した。白星と残留は、はかなく消えた。

「一番の勝負どころで勝ち切れなかった。焦りが出たのかな」とベテランの坂井克行(豊田自動織機)。「これが今の実力。少し格上のチームには(試合時間14分間の)12分くらいは戦えるけど、ラスト2分で負けるという試合をこれまでも続けてきた」と悔やむ。

反則を犯す直前の密集でも日本は人手をかけたが、攻守交代に失敗している。「ボールが見えていたので蹴り出せばよかったが、手で奪いにいってしまった」と岩渕健輔ヘッドコーチ(HC)。確実に自分達のボールにしようと密集を一押ししているうちに、相手に再確保されてしまった。細かな判断ミスが勝敗を分けた。

「逆転トライの後、選手交代で間を取って一度、落ち着かせた方がよかったかもしれない。自分の責任」と岩渕HCは悔やむ。ただ、最高の流れできていたから、一呼吸置くべきかは難しい判断だった。

降格は強化に支障をきたす

コアチームから降格すると、翌シーズンのWSには通常、2大会程度しか出場できない。「強化に大きな問題が出る」と岩渕HCも認める。

今季のような五輪前年のWSは、日本の鬼門となっている。4年前はさらに悪い成績で降格した。通常のシーズンより厳しい戦力での勝負を強いられることがその理由だ。

五輪の前年以外は、日本に3年間住んでいる海外出身選手も代表として出場できる。しかし、4年に1度のこのシーズンは五輪予選を兼ねているため、国籍を持つ選手しか出られない。今季の日本も、前年までの主力の海外出身選手5人が不参加だった。

誤算は他にもあった。代表屈指の快足、リサラ・シオシファ(豊田自動織機)は所属チームの事情などでシーズンの半分しか参加できず。ニュージーランド出身で日本国籍を取得したボーク・コリン雷神(リコー)も、国際統括団体が代表資格の審査を厳格化した影響で、代表デビューは来季に持ち越しとなった。

厳しいシーズンとなった一方、1年を通してみるとプレーの中身には進歩もあった。「今季の最初は(1大会の)5試合とも大差で負けていたが、最後の方は戦えるようになってきた」と坂井は話す。

最後のパリ大会では、初戦でフランスから金星。直前の大会では強豪イングランドからも史上初の白星を挙げた。藤田慶和(パナソニック)も「チームとしてすごく成長できたし、強豪国とも戦えている」と胸を張る。

日本はパリ大会初戦のフランス戦で金星を挙げた(日本ラグビー協会提供)

成長はデータにも表れている。特に、14~15位と苦しんだWSの最初の3大会と、残りの7大会との差は歴然だった。

攻撃の有効度を測る「ポジティブアタック」というチーム独自の指標がある。一連の攻撃がトライや相手の反則など日本の有利な形で終わった割合を示しており、日本の勝敗との相関関係が高い。

セットプレーが安定

チーム目標の70%に対し、最初の3大会は46%と低迷した。しかし、その後の7大会は54%に改善、うち3大会では60%台を記録した。スクラム、ラインアウトというセットプレーの安定と、直後の攻撃の精度の向上、昨年からこだわってきた体力強化が結実したと岩渕HCはみる。

他のプレーも改善を見せた。守備の根幹となるタックル成功率は最初の3大会が49%だったが、その後の7大会は60%に上がった。15人制より頻度が多く重要なキックオフも、布陣の修正などにより改善。相手が再獲得を狙って蹴ったボールのキープ率は、後半7大会で77%とそれまでより9ポイント向上した。

数字には表れにくい部分だが、集団としての芯も通りつつある。今季、力を入れてきたのがチームの文化の再構築。「何のために戦うのかというのをチームで何度も話し合った。周囲の人や世界中の人の心に響くプレーをしなければいけない。それが桜のエンブレムを付けている意味だと確認した」と岩渕HC。藤田も「試合で意識するところを選手同士で話し合ったり、ハーフタイムに自分達で修正したりできるようになってきた」と話す。

選手層の厚みが出てきたのも大きい。今季途中から参戦、ダイナミックなプレーを見せた藤田や、全10大会で攻守に奮闘した本村直樹(ホンダ)、俊足の松井千士(サントリー)らは急成長を見せた。

東京五輪にはボークとリサラらも参加できる方向だ。他の一部の海外出身選手も帰化が認められる可能性が高い。15人制代表の主力、福岡堅樹(パナソニック)、レメキ・ロマノラバ(ホンダ)ら、今秋のワールドカップ日本大会後に7人制に再挑戦する実力者もいる。

最後のパリ大会も、データ上は14位に終わるような数字でなかった。終盤の勝負強さや、1大会の5試合を戦い抜く安定感がまだ足りないということなのだろう。「毎年WSで戦っているチームと1年で降格するチームの差が出たのかな」と坂井は言う。本来は来季も最高峰の舞台で戦うことで、その差を埋めたかったのだが……。

五輪まで指導を続ける可能性が高い岩渕HCは、降格の不利を乗り越えるプランを練っている。WSにスポット参戦できる回数を交渉で増やし、他の大会への参加などで今季より多くの試合を重ねることを目指す。

東京五輪まで残り1年。理想の道のりから外れ、目指すゴールへ到達するための試行錯誤が始まる。だが、現在の成長速度と伸びしろを考えると、五輪のメダルに挑戦する資格は十分にある。

(谷口誠)

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