地元素材の香り共鳴 ジン専門蒸留所(京都市)
匠と巧

関西タイムライン
2019/6/24 7:01
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ボタニカルと総称されるハーブやスパイスを使って香りをつけた「クラフトジン」の人気が広がっている。2016年に生産開始した国内初のジン専門蒸留所、京都蒸溜所の「季の美」は海外専門誌の賞を多数受けるなど高い評価を得ている。香りの芸術と呼びたくなる豊かな味わいは、英国出身の技術者を中心とする匠の技の結晶だ。

一口含むと山椒(さんしょう)やユズの豊かな香りが広がる。まろやかな口当たりが特徴の米を原料としたライススピリッツに京都産の素材中心に香り付けした「季の美」はストレートで飲んでも攻撃的なアルコールの刺激は感じない。

同社は京都市南区の工業地域に小さな蒸留所を構える。倉庫のような建物には大小様々な金属製タンクが並び、ライススピリッツにボタニカルを漬け込み、香りを抽出する蒸留、ブレンド、熟成と各工程が進む。

英国で経験を積んだヘッドデスティラー(蒸留責任者)のアレックス・デイビスさんを中心に設計し「世界でも珍しい」(デイビスさん)独自の工程だ。まず11種類のボタニカルの傾向ごとに「柑=シトラス」(ユズとレモン)など6つに分類。グループごとに蒸留して6つの原酒を造り、ブレンドして完成だ。

ボタニカルすべてを一度に浸漬、蒸留する一般の製法に比べ蒸留の手間は6倍。繊細なブレンド作業も加わる。「最も大事なのは素材のハーモニー。『季の美』の素材を最大限に引き出すにはこの方法が最適だった」(同)

デイビスさんは大学院で醸造・蒸留学を修めた後、本場英国の名門蒸留所に在籍。数百のボタニカルごとに最適な蒸留法を研究するなど、知識とノウハウを蓄積した。「季の美」のレシピ、製法はそのたまものだ。

ボタニカルに使う素材は同じ生産者から仕入れたものでも、収穫時期や年によって香りは大きく異なる。蒸留する際のアルコール度数、温度、時間などを細かく調整し、ベストな香りを抽出する。

日々変わる素材や環境に対応して一定の味を保つ品質管理が地味ながら重要で難しい。データによる厳密な管理体制を敷いているが、最終的には人間による官能評価に頼らざるを得ない。味わっては工程を調整し、また味わう。日々のトレーニング、体調管理にも細心の注意を払って評価を続ける地道な作業だ。

ジンはジュニパーベリーというスパイスで香り付けした蒸留酒であれば、素材も製造地域も製造法も問わない。造り手にとって自由度の高い酒だ。

蒸留方法も水とアルコールの沸点の差を利用するシンプルな原理を使うため、極端なことを言えば「誰でも造れる」とバーテンダー出身の蒸留技術者、佐久間雅志さん。「だからこそ、逆に無限のレシピがあり、本当に質の高いものを造るには優れたアイデアと膨大な経験が求められる」。本場英国仕込みの技が日本の素材を最大限に生かし、地元に根ざした特産品を生み出している。(佐藤洋輔)

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