「物事を常に問い続けよ」 家入一真 CAMPFIRE代表取締役
#ファクトを活かそう 06

コラム(ビジネス)
2019/6/28 6:30
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ハンス・ロスリング氏の著書「ファクトフルネス」が世界で約100万部のベストセラーになっている。テクノロジーが発達する中でも、データを基に世の中や未来を正しくとらえる習慣をつけようと提唱する。第一線で活躍する経営者や社会学者に、データの読み解き方や、人間が陥りやすい思考、ファクトの探し方などについて聞いた。6回目は、クラウドファンディングサイトのCAMPFIRE代表取締役で、エンジェル投資家としても知られる家入一真氏。

日経は若手社会人と共に考える場を作ります(Twitter:@nikkei_jisedai

■世の中に「居場所」を増やしたい

――家入さんは挑戦する若者への支援に積極的です。クラウドファンディングやエンジェル投資だけでなく、SNS上で知り合った学生とその日いきなり会うこともあると聞きます。原動力はなんですか。

いえいり・かずま 連続起業家。22才で株式会社paperboy&co.を立ち上げ。現在はクラウドファンディングサイトCAMPFIRE代表取締役。エンジェル投資家の顔も持つ。

いえいり・かずま 連続起業家。22才で株式会社paperboy&co.を立ち上げ。現在はクラウドファンディングサイトCAMPFIRE代表取締役。エンジェル投資家の顔も持つ。

「次世代へのギブ」を常に意識しています。特に、生きづらさを抱えた人への居場所や心のよりどころをつくりたいです。

自分の過去の原体験がそのきっかけです。僕は小さい時いじめを受け、登校拒否、対人恐怖症になった。10代の多感な時に孤独を覚え、居場所がなかった。当時の自分のような人間にとって、こういう場所があったらよかったんじゃないかというものをつくりたい。自分は生きてていいんだと思える場所の選択肢を世の中に増やしたいんです。

先日、札幌出張の時に「きょう会える子募集」ってSNSで出して、大学生の子たちと飲みました。重大な相談を受けるわけじゃない。起業したくて悩んでいるとか、起業したけどどうしたらいいのか、とか。思いや話を聞いてほしいだけ。だから、僕は壁打ち役に徹する。「うんうん」って、聞いているだけです。

そんなときよく言うのは「なんで?」です。「なんでそう思うの」「なんであなたはそれをやる必要があるの」と問う。そういう若い子って、解像度が甘い状況のままぼんやりと、煮詰まらない状況に陥っています。それに「なぜ」をあてると言語化でき、クリアになるんです。

僕と会った数時間だけで、その子の人生や世界は変わらない。それよりも、なぜそれに挑戦したいのかをその場で見つけるお手伝いがしたいなと。僕を介した横のつながりができることもありますしね。僕はバス停や、受け皿みたいな役割でいいんです。

■「起業せよ」と言えなくなってしまった

――生き方や働き方が多様化するなか、起業を目指す若者も増えています。家入さんに進むべき道筋を示してほしいニーズがあるのではないでしょうか。

いやー、未来なんてわからないですよ。確かに、みんな僕に事業計画のプレゼンをしてくれますが、それが計画通りいくのなら、すべての起業家は成功しているはず。未来が予想できるということ自体おこがましくないですか。

起業家あるあるのひとつに、「なぜ起業するのか」の理由で二項対立が起こる、というものがあります。

ひとつが僕のようなタイプで、原体験が基になる。家庭環境、生い立ち、コンプレックスがあるから事業をはじめるタイプ。スティーブ・ジョブズ氏の格言「Connecting The Dots」(人生の点と点は、つながって必ず線になる)みたいな。僕は、家が貧しくて、起業以外に道がなかったから起業したんです。

もうひとつは原体験なんかいらない、という起業家の派です。伸びる市場を見極めて、いちかばちか張る。軸足を決めて、張り続ければ、成功率が高まると。それも考え方でしょう。

でもそれでうまくいくんでしょうか。伸びる市場がみえていたとしても、大きな波がきたときに砂浜にいてはもう遅い。すでに沖にいる人には勝てません。本当にそういう社会の流れがくるかどうかわからないタイミングで、それを信じて誰よりも先に沖に出られるか。そこに思いをもってこぎ出すだけの力の源って、原体験的なものなのではないでしょうか。

――強い思いを持って起業せよと、アドバイスされているのですね。

昔はそうしていました。かつては「どんどん起業しようぜ」「自分の手で自由をつかみとろうぜ」ってメッセージを出していました。ただ僕自身、歳を重ねるごとに思考が変わっています。今は、本当に起業すべきかどうかはわからない、起業すべきじゃない人もいるんじゃないか、というのが正直な気持ちです。

最近は起業家の年齢も下がり、高校生の起業相談も多く受けます。選択肢が多いのはいいことですが、起業家が増えた結果、気持ちが追い込まれ心を病んだり、挫折し絶望したりしている人も一部で出てきています。そのように悩む起業家のために、メンタルヘルス課題の解決プログラムとか、セーフティーネットをつくろうとしているくらいです。それを見ていると、みんなが起業すればいい、というのは言うべきではないと感じています。

僕はたまたま成功して居場所づくりしているだけで、僕の人生に再現性はない。単純化できない。なのに、こうしたら成功できるよって声のほうが拡散されるから、世間を勘違いさせているのかもしれない。失敗した9割9分の人たちの声は、かき消されてしまっている。

そう考えたら、自分の経験では、過去にこういうつらい目にあって、今は居場所づくりの活動をしています、としか言えなくなった。

――その境地にたどり着くまでにどのような経験をされたのですか。

5年前に東京都知事選に出馬しました。政治を使って居場所をつくろうとした。僕の思想は比較的リベラル。だからボランティアにきてくれた若者も、近い思想を持っていた。居場所づくりと親和性が高いというのもあるでしょう。

でも、彼らの一部ですが、言っていることが極端でした。なにか論争になるものがあると、過剰で過激な反応をしてしまうことがあり、問題になっていました。そのころ同時に、ほかの候補者の一部支持者の間でも、同じような問題があったようです。

そこで気づいたのが、「ああ、どんな立ち位置でも、振り切るとおかしなことになってしまうんだな」と。お互いが自分たちを絶対的に正義だと思っている。正義対正義。それを見ていたら、2週間の選挙活動が進むにつれて、僕はなにも言えなくなってしまったんですよ。選挙戦略上は、どちらかにポジションをとり、極端な話を言い続けるべきだったんでしょう。でも、それっていいことか。そもそも、なぜこんなに世の中が分裂してしまうんだ。そう思ったら、極端な物言いなんてできなかった。それってポジショントークにすぎない。

起業しようぜっていうメッセージですら、そうじゃないですか。

海外でもそうです。反知性主義が台頭していく中で、極端な立場から人を動員する人の強さが際立っている。そういうものが世界を覆っているから、僕は不安です。すべてが極端な物言いに偏るのは恐ろしいし、すごく怖い。

そんなときに出会ったひとつの希望がこの「ファクトフルネス」だったんです。

ファクトフルネスって、「ひとりひとりが見る世界の解像度をあげる訓練をして、そういう癖をつける」という意味だと思います。そういう人がいる限りは世の中まだまだ捨てたものじゃないなと、希望を抱いたんですよ。正しく事実と向き合う訓練をひとりひとりがしていかなきゃいけない。

■安易に答えを出すな。正解なんて存在しない

――若い世代がそのような訓練を積む方法はありますか。

CAMPFIREの行動指針、バリューに「安易に答えを出すのではなく、常に問い続けよう」があります。物事を疑い続け、問い続ける。正解がすぐに欲しいけど、正解なんて存在しない。でも諦めずに正解らしきものを追い求める。それが正解です。

生きるのが不安で、正解がほしいのはわかります。昔はいい学校出て、いい会社に入るというのが正解だった。今でも親世代はそう言っています。でも、現実は変わってきている。そんな生き方は時代遅れだという人すらいる。働き方が多様化する中で選択肢が増えている。でも、答えはだれも持っていない。それって不安で不安でしょうがない。だからこそ、よりいっそう答えを求めてしまう。

若い世代には、「戦う敵を見誤るな」と伝えたいです。SNSで仮想敵を作って、同じ意見を持つものどうしで団結し、二項対立になって、石を投げあってはいけない。そんな人が増えている。特に、新しいムーブメントと既存の仕組みの衝突でそれが起こっている。本当にすべきなのは、解決したい課題や目指したいことを見つけ、それに一歩ずつ向かっていくことなのではないでしょうか。

――若い世代はなにを求めているのでしょうか。

つながりではないですか。僕の友人に松本紹圭さんというお坊さんがいます。お寺の掃除メンバーを不定期にTwitter(ツイッター)で募集していて、フリーランサーなどいろんな人が朝6時につながりを求めてやってくる。会社に所属していれば毎日行く場所があるけど、会社から飛び出した人って、一人で仕事していて、孤独にさいなまれることもある。掃除であっても、彼らにとってはつながりなんです。

僕がやっている「リバ邸」という駆け込み寺的なシェアハウスにくる子も同じです。僕自身もそうでしたが、会社、学校、家しか所属する場所がないと、どれかが奪われた途端に居場所がなくなってしまうんですよ。

いくつものコミュニティーに属するのは大事だと思います。個の時代が来るといわれ、会社に属さない生き方、働き方がわりとしやすくなっています。誰かとつながれば、思想や哲学で自分とは別の考えを持つ人と出会える。ヒエラルキー型の組織じゃなくて、水平で分散しているコミュニティーにいくつも属していくことが、僕の想像する未来です。

日本経済新聞社は7月11日、『ファクトフルネス』の共著者を招いた記念講演を開催します。著書で語られている「世界の今をデータで読み解く」大切さを話してもらいます。詳細はTwitter(@nikkei_jisedaiから。

【「#ファクトを活かそう」記事一覧】
(1)データのない世界を歩め インテグラル代表 佐山展生氏
(2)ビジネスは打率で検証を THE GUILD代表 深津貴之氏
(3)エビデンスで考える APU学長 出口治明氏
(4)問題意識がファクトを生む 社会学者 上野千鶴子氏
(5)データで解像度を上げる アル代表 古川健介氏
(6)物事を常に問い続けよ CAMPFIRE代表 家入一真氏

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