2019年8月23日(金)

市長自らトイレ掃除 バランスシート導入でも先べん
林業家・後藤国利さん(4)

コラム(地域)
2019/6/20 6:00
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 大分県議は5期20年で引退し、家業である製薬会社の社長に専念する。それから2年後、一転して臼杵市長選に出馬した。

現職の市長が体調を崩して亡くなり、急きょ選挙が決まりました。出馬を決断したのは告示の1週間前です。故郷の財政再建に力を尽くしたい一念からでした。破綻の可能性が高い自治体として、臼杵市は全国でワースト7位、九州で2位でした。

臼杵市長時代は、財政再建のため全国の自治体に先駆けてバランスシートを導入した(手前が後藤さん)

臼杵市長時代は、財政再建のため全国の自治体に先駆けてバランスシートを導入した(手前が後藤さん)

市役所の職員の綱紀は乱れていました。始業は午前8時30分なのに、その時間に職員の出勤ラッシュが始まります。一方、午後5時の終業時間には退勤ラッシュが終わります。トイレは臭くて、庁内の壁は汚れている。職員は市民から尊敬されるどころか、疎まれる存在でした。

市長の登庁初日は午前中に歓迎セレモニーが行われるのが通例でしたが、断りました。逆に閉庁後の午後5時10分に職員に集まってもらい、「市役所は市民のためにあるという原点を確認してほしい」と訴えました。

コスト削減を訴えるため、黒塗りの市長専用車は売却。トイレ掃除は業者ではなく職員がすることにしました。もちろん私もブラシを持ちました。最初の課長会議では、「市財政の再建」「市民のための市役所づくり」といったテーマで、実現可能なプランを2週間で考えさせる課題を出しました。職員の意識改革が最重要と考えました。

 就任直後から自治体のバランスシート作成に取り組んだ。監査法人のトーマツや大学教授らの協力を得て、通常の企業のような貸借対照表と損益計算書を完成させた。全国に先駆けたチャレンジだった。

驚いたことに、自治体には資産と負債を管理する発想がありませんでした。将来の世代にツケを残す借金を重ねようが、当面の辻つまさえ合えばいいのです。金の出し入れを記録するだけでは、本物の財政再建ができるはずがありません。

公会計に精通している公認会計士や大学教授らを集め、職員の退職金引当金などの隠れ借金も表面化させました。やがて石原慎太郎さんが知事を務める東京都もバランスシートを作成。総務省は2006年、すべての自治体に指導しました。臼杵市の試みは全国に広がっていきました。

 名刺には地方公務員の当て字で「地宝 幸夢員」(ちほうこうむいん)と刷り込んだ。地域の宝を大切にし、幸せと夢を育む仕事人でなくてはならないという決意だった。

市長は行政組織に取り込まれてはいけませんし、独善に陥ってもいけません。職員に対しては3日に1回のペースで、私の考えを記した「市長からの手紙」を出し続けました。

一方、財政再建の手は緩めませんでした。臼杵港を埋め立ててホテルや公園などを造る構想がありましたが中止しました。ゴミ処理場とし尿処理場の整備計画も見直しました。役割を終えたと思えたのは3期目のことです。69歳で市長を引退、やっと林業に専念できる環境が整いました。

(この項続く)

(大分支局長 奈良部光則)

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