老後資金「2000万円」問題 年金改革と自助努力が焦点
老後資金の議論が深まらない。老後に2000万円の金融資産が必要との試算を示した金融庁の報告書を巡る18日の国会審議は、報告書を不受理とした麻生太郎金融相の対応など手続き論に質疑が集中し、老後の生活を支えるために何が必要なのかの議論は進まなかった。国民の不安を払拭するには、年金制度の改革と自助努力の促進策が重要になる。

18日の参院財政金融委員会。共産党の小池晃書記局長は「100年安心プラン」と銘打たれた今の年金制度について「多くの国民は年金で100年安心して暮らせると受け取っている」と投げかけた。これに対し、麻生金融相は「制度の持続可能性がしっかり確保されていることを示すものだ」と応じるにとどめた。
政府が「100年安心」との言葉を使い始めたのは公的年金制度を今の仕組みに見直した2004年からだ。現役世代の保険料率を段階的に引き上げて年収の18.3%で固定する一方、少子高齢化の進展に合わせて年金給付を抑えるマクロ経済スライドと呼ぶ仕組みを導入。年金財政の収支がおおむね100年にわたり均衡するようにした。
現役世代の負担増と高齢者の給付抑制を組み合わせて制度の持続性を高める改革だったが、「100歳まで年金だけで暮らせる」ことを約束した制度ではない。それにもかかわらず、「100年安心」という言葉への誤解をあえて許容してきた面が政府にはある。
安倍晋三首相は同日の参院厚生労働委員会で「公的年金は老後の生活設計の柱という方針にはいささかの変更もない」と強調。「マクロ経済スライドが安倍政権で機能するようになった」とも述べ、制度の持続性は高まっていると主張した。
ただ日本の年金制度が課題を抱えていることは確かだ。同スライドが発動したのは15年度、19年度の2回のみ。デフレ時には発動しない決まりになっているためだ。
会計検査院は毎年発動していれば国の負担は累計で3.3兆円削減できたと試算している。スライドが発動しない状況が続けば、年金抑制が当初想定ほどは進まず、今の現役世代が将来もらう年金額は少なくなる。だが発動要件の見直しは過去に野党が「年金カットだ」と批判した。一段の強化は政府は及び腰だ。
足りない老後資金を年金給付の増額で賄うなら巨額の財源が必要になる。増税や年金保険料の引き上げが避けられず、現役世代の負担増が必要になるが、今の国会の議論はこうした政策論争には踏み込んでいない。
少子高齢化が進む中で老後の備えを厚くするには、年金改革と同時に国民一人ひとりの自助努力が重要なカギを握るが、こうした議論も低調だ。
同日の参院委では金融庁が報告書の検討過程で「1500万~3000万円が必要」とする独自試算を示していたことが取り上げられたが、数字が独り歩きする状況ばかりが続き、年金制度の実態を踏まえた自助努力の必要性やその支援策に関する議論は乏しい。
「生活できる年金払え!」。16日に都内で開かれた公的年金の十分な給付を求めるデモの参加者には、普段見かけない若者の姿があった。さいたま市の大学生の女性(21)は「自分が高齢者になるころにはほとんどもらえないだろう」と不安を口にした。
17日夜に都内で開かれた「老後に2000万円は本当に必要か緊急会議」と名付けられたセミナーは、仕事帰りの20~50代の会社員ら144人が会場を埋め尽くした。年金制度を支える現役世代の不安は強まっており、改革は急務だ。
金融庁報告書を受け取らなかった麻生金融相は18日、「文章をきちんとした上で新たなものを作業部会でつくることも考えられる」と語った。老後資金の対策を進めるには、ていねいな試算に基づく将来像の提示は不可欠だ。それは年金制度を所管する厚生労働省の職務でもある。