エジプトのモルシ元大統領死去 13年に拘束、公判中に
【カイロ=飛田雅則】2013年に失脚したエジプトのモルシ元大統領(67)が17日、カイロの裁判所で公判中に倒れ、死去した。同氏は長期独裁政権の崩壊後、12年に同国初の自由選挙を経て大統領に就任したが、軍のクーデターで追放され、拘束されていた。モルシ氏の死は、エジプトや中東地域の民主化の難しさを改めて認識させる契機となりそうだ。

「私にかけられた罪はすべて事実と違う」。モルシ氏は17日の公判中、鉄格子に囲まれた被告席で興奮気味に訴えた後、意識を失い、搬送先の病院で死亡した。同氏は拘束後、スパイ行為や機密漏洩などの罪に問われた裁判が続いていた。

出身母体のイスラム組織「ムスリム同胞団」は、政府が必要な治療を受けさせなかったと批判した。モルシ氏の死をきっかけに、同胞団と軍との対立が再び強まることを懸念する声もある。
モルシ氏は12年の大統領選挙で同胞団傘下の政党から出馬し、当選した。当初は民主化や経済再生を期待する有権者から高い支持を得たが、就任後は失望が広がった。
要因の一つは宗教色が強い政策を相次いで打ち出したことだ。同胞団関係者を首相などの要職に起用し、学校では女子生徒にイスラム教徒向けのスカーフ「ヒジャブ」の着用を強要した。政教分離を重視する世俗派などから強い批判を浴びた。
経済再生に取り組まなかったことも国民の失望を招いた。若者の雇用状況は改善せず、国内各地で衝突が日常化した。治安悪化から撤退する外資企業が相次ぎ、深刻な経済低迷に陥った。
当時の国防相で、現在大統領を務めるシシ氏は混乱収束を名目にクーデターを主導し、モルシ氏を拘束した。シシ政権は独裁色を強め、反体制派の弾圧を続ける。19年4月には憲法改正を実現させた。シシ氏は30年まで通算16年間、大統領職にとどまることが可能になり、再び長期強権体制が敷かれる可能性が高い。