2019年7月20日(土)

「データのない世界を歩め」 佐山展生 インテグラル代表取締役
#ファクトを活かそう 01

コラム(ビジネス)
2019/6/23 6:30
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ハンス・ロスリング氏の著書「ファクトフルネス」が世界で約100万部のベストセラーになっている。テクノロジーが発達する中でも、データを基に世の中や未来を正しくとらえる習慣をつけようと提唱する。第一線で活躍する経営者や社会学者に、データの読み解き方や、人間が陥りやすい思考、ファクトの探し方などについて聞いた。1回目は、投資ファンドのインテグラル代表取締役で、スカイマーク代表取締役会長としても知られる佐山展生氏。

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■「えっ!」と思ってもらえれば、人の心は動く

――佐山さんは2015年から経営破綻したスカイマークの経営にかかわっています。経営のかじ取りの上で注目している数値や領域を教えてください。

さやま・のぶお 京大工学部卒業後、帝人入社。1987年三井銀行入行。現在は投資ファンドのインテグラルを率いる。2015年、スカイマーク会長に。

さやま・のぶお 京大工学部卒業後、帝人入社。1987年三井銀行入行。現在は投資ファンドのインテグラルを率いる。2015年、スカイマーク会長に。

飛行機を利用するお客様に安定したサービスを届けているかを判断する指標の一つに「定時運航率」があります。経営破綻前のスカイマークは、定時運航率で最下位争いをしていました。私はこの指標の改善に取り組んできました。

「スカイマークは遅れる、欠航する」。世間にそういうイメージがついていたわけですから、これを払拭するのは大変です。仮に頑張って頑張って、定時運航率が5ポイント良くなったとしても、世の中の大半はその変化には気づかない。ちょっと改善しても伝わらないのです。

そこで打ち出したのが「定時運航日本一を目指す」という目標です。最下位争いをしていた会社が突然日本一になったら、「えっ!」って思うでしょう?えっ!って思ってもらわないと、お客様は体験してみようと思わないし、もう一度スカイマークを使ってくださらないのでは、と考えたのです。

――高い目標を自分たちに課したのですね。

そうです。指標を改善するためには、わかりやすい目標を立てて、いやというほど社員のみなさんにすり込むのが必要だというのも「日本一」を打ち出した理由です。

就任以来、「さやま便り」というメッセージを全社員に毎週写真入りで送っています。先週こんなことがありましたと、3年半以上伝えてきました。便りの中で、定時運航日本一を目指すというスローガンをどこかに必ず盛り込みました。そうすることによって、社員の皆さんに浸透するのです。「えっ!」と思ってもらえますから。そのおかげもあって、スカイマークは現在、定時運航率で日本一の会社になりました。

「さやま便り」はそれ以外の効果もありました。私がスカイマークを使って全国の空港に行くと、現地の従業員がみんな私の顔を知っているのです。どこに行っても声をかけてくれる。きっと従業員も最初は、投資会社から誰かがやってきて、なんか会長やっているらしいぞと思っていたかもしれない。でも、今ではみんなに認識してもらえました。

こんなうれしいことはスカイマークだけです。別のある会社でも役員をしていたのですが、この前たまたまその会社の社員と会う機会がありました。最近調子良いですね、と声をかけたら、私が誰か気がつかない。海外展開が順調らしいですね、と言ったら、「よく知っていますね」と言われた。私は役員としてその決定に関わっていましたから、そりゃ知っている(笑)。でも、普通にしていたら、そんなものなのですよ。社員には自分からメッセージを出さないと、伝わりません。

■本当に面白いことに、データはない

――ご自身の行動や判断において、数値やデータをどのくらい重視していますか。

実は、自分がどちらの道に進むかといった決断において、世の中のデータを参考にしたことはありません。わたしは感覚や本能で生きるタイプです。何かのデータがみえてから動いても、もう遅いのではないかと思います。「みんながやっている」というデータを後追いしても、確実にできることだから、達成感が小さいのではと思っています。

これまで私はデータのない世界を歩んできました。M&A(合併・買収)の世界に飛び込んだ1987年、情報を得るための書籍や前例はほとんどありませんでした。独立系投資ファンドの草分けとなるユニゾン・キャピタルを設立した1998年も、参考にできる情報はありませんでした。だからこそ燃えました。大きな転換がある時、本当に面白いことにはまだデータはないのです。結局、自分の直感です。

みんながやっていることをやらない方が面白いよ、と言いたいです。みんながやっていないものに挑めば、トップになれる可能性があります。

「ファクトフルネス」で直線本能というのがありました。右肩上がりに推移しているものが、今後もそのまままっすぐ伸びると勘違いしてしまう人間の本能です。でもそんなことはない。新卒の就職人気ランキングを見ればわかります。かつては重厚長大産業や電機メーカーに入れば大いなる安定を得られると思っていました。でもいまではそんな企業がリストラや事業再編を強いられています。

もしそんな"人気企業"に入ったら、ずっとそこで働くと思わないほうが良いですね。探検気分で過ごすといいです。人気企業たる理由はあるはずですし、どういう仕組みになっているのか強みを学べるから、行く価値はあるのです。でも、このままうまくいくという直線だとは思わないほうがいい。

一応言っておきますが、私はデータを見ること自体は好きですよ。もともと技術系ですし、1980年代にはWindowsが出る前の表計算ソフト「ロータス123」を使ってデータ分析業務もかなりしていました。いまでも、スカイマークの搭乗率と定時運航率の関係などはこまめに見ています。その分野がどうなっているかについては、データをしっかり活用すべきなのは事実です。

■あらゆる面で「日本一」になる

――最後に、佐山さんがいまチャレンジしていることを教えてください。

スカイマークの再上場を2020年9月末までに成し遂げたいと思っています。単に上場すればいいわけではありません。すべてのステークホルダーを幸せにしたいと思っています。

例えばスカイマークは国内航空業界の"独立系"の立場のまま、大手2社の系列に入らない第三極としてお客様に選択肢を示したいと考えています。

その中でのせめぎあいもあります。例えば、スカイマークの株主、ANAホールディングス(全日空)からは旅客システムを同社の「エイブルシステム」に切り替えるよう求められました。そうすれば共同運航便(コードシェア)ができるし、スカイマークの座席を両社で販売できると言われました。

コードシェア自体にはむしろ賛成です。ただ、「ANAのシステムを導入することが前提」では、売上金は一旦ANAに入って数カ月後にやっともらえるし、顧客情報はANAに入ったあと、お願いしないともらえない。またダイヤ変更もANAにお願いしないといけない。これでは、独立系の会社ではないですよね。スカイマークとANAのシステムをつなげば、エイブルに入らなくてもコードシェアは可能です。ANAさんには大変お世話になっていますのでぜひご理解いただきたいのです。

上場に向けて、従業員満足度はいっそう向上させていきたいですね。指標にしているのは社員による会社評価や口コミが集まる転職サイト「OpenWork(オープンワーク)」のスコアです。いまのスカイマークは総合スコアが3.25なのですが、これを3.8くらいまで上げたい。大手2社が3.3~3.4くらいなので、まずは追いつきます。

「あなたは社内で自分の力を何%発揮できていますか」という社内アンケートも年1回集めています。活気のある会社は平均が80%を超えます。「100%発揮できている」と答える社員の割合も見ています。大企業は「100%」と答える社員はほとんどいません。いろいろな調査結果がたまってきたので、良い会社づくりの参考にしたいと思っています。まずは、スカイマークが定時運航率の高さだけではなく、社員満足度など、あらゆる面で日本一の会社になるのを目指したいと思います。

日本経済新聞社は7月11日、『ファクトフルネス』の共著者を招いた記念講演を開催します。著書で提唱している「世界の今をデータで読み解く」大切さを語っていただきます。詳細はTwitter(@nikkei_jisedai)から。

【「#ファクトを活かそう」記事一覧】
(1)データのない世界を歩め インテグラル代表 佐山展生氏
(2)ビジネスは打率で検証を THE GUILD代表 深津貴之氏
(3)エビデンスで考える APU学長 出口治明氏
(4)問題意識がファクトを生む 社会学者 上野千鶴子氏
(5)データで解像度を上げる アル代表 古川健介氏
(6)物事を常に問い続けよ CAMPFIRE代表 家入一真氏

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