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大坂、自分見失った全仏テニス 居心地悪い「1位」
スポーツコメンテーター フローラン・ダバディ

2019/6/16 6:30
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全仏テニスの大坂は高鳴る心臓の鼓動が聞こえてきそうなほど緊張していた=共同

全仏テニスの大坂は高鳴る心臓の鼓動が聞こえてきそうなほど緊張していた=共同

今年もテレビ中継のキャスターとして全仏オープンテニスに行ってきた。様々なドラマが生まれた15日間を振り返ってみたい。

四大大会3連勝を狙いながら3回戦敗退に終わった大坂なおみは自分を見失っていた。足や耳をこわばらせ、毛を逆立てる借りてきた猫のように、高鳴る心臓の鼓動が聞こえてきそうなほど緊張していた。

できるだけ目立ちたくないという21歳のおとなしい彼女にとって、オオカミの群れに追われるような世界ランキング1位という立場は居心地が悪いのだろう。「アフリカ系日本人」というアイデンティティーを持つ彼女が今後、どのようなロールモデルをつくり上げていくのか注目したい。

錦織圭はラファエル・ナダル(スペイン)と準々決勝で当たるくじ運の悪さはあったが、プレー自体はしっくりきている印象を受けた。課題はやはりサービスだ。30年前に全仏を制したマイケル・チャンコーチは長尺ラケットを使ってパワー不足を補った。錦織も検討してみてはどうだろうか。

ナダルは今年も無敵だった。人間離れしたパワフルなショットと野性味あふれる雄たけびはギリシャ神話に出てくる頭が牛のミノタウロスやキングコングを思わせる。猛獣の咆哮(ほうこう)に鳥肌を立てる動物園の見物人のように、対戦相手は縮こまってしまう。

こんな怪物を倒すには胴体にヤリを突き刺すような強烈なウィナー(決定打)を打ち続けるしかない。決勝で対戦したドミニク・ティエム(オーストリア)は勇敢に真っ向勝負で立ち向かったが、及ばなかった。ギリシャ神話では迷宮に閉じ込められたミノタウロスをテセウスが退治する。ローランギャロスという名の迷宮にテセウスは現れるだろうか。

ナダルは全仏テニスで今年も無敵。男子シングルスで3年連続12度目の優勝を果たした=共同

ナダルは全仏テニスで今年も無敵。男子シングルスで3年連続12度目の優勝を果たした=共同

女子シングルスではアシュリー・バーティが新風を吹き込んだ。女子テニス界はパワフルなハードヒッターが席巻する時代が続いている。小柄なバーティも筋骨隆々のアスリートだが、そのプレーはパワー以上に豊かな才能と知性を感じさせる。バーティは多くのオーストラリア人選手がそうであるように、幼い頃から色々なスポーツに親しんできた。数年前にはテニスを離れてクリケットに打ち込んでいた時期もある。奇才のアスリートと呼ぶのがふさわしい。

今年の全仏は雨や強風など気まぐれな空模様に振り回された。ミニスカート姿のパリジェンヌは見当たらず、エッフェル塔はもやに包まれて寒そうにしていた。四大大会4連勝を狙った世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)や4年ぶりに参戦したロジャー・フェデラー(スイス)は好調なテニスで歩を進めたが、準決勝では厳しい天候にも泣かされた。彼らは太陽の下でこそ本来のプレーができるようだ。

プレー以外の話題も多かった。注目されたのがローランギャロスに隣接する植物園内に登場した新しいコートだ。客席の四方を温室に囲まれ、地中に半分埋め込んだ形のこのコートは傑作と呼ぶのがふさわしい。収容5000人という規模は客席との一体感が抜群で、独特の熱気を醸し出していた。4つの温室には世界各地の熱帯植物が植えられ、大会期間以外も植物園の訪問者に開放される。

植物園内に登場した新しいコート(左側)は客席の四方が温室に囲まれている=AP

植物園内に登場した新しいコート(左側)は客席の四方が温室に囲まれている=AP

僕は2010年、米プロフットボールNFLのダラス・カウボーイズの本拠地で、一流の現代芸術を集めた美術館などを兼ね備えたAT&Tスタジアムを初めて見たときのことを思い出した。それから約10年、ローランギャロスの新コートは時代の潮流を改めて示していると考えていい。

円形でモノトーンという味気ないものが多かったスポーツ施設にも、驚きと創造性、スポーツ開催時以外でも訪問してもらえる魅力が求められるようになったのだ。1964年の東京五輪のために丹下健三氏が設計した代々木体育館は遊び心に満ち、建築作品として高い評価を受けている。来年の東京五輪のための新しい競技場も代々木体育館に負けない施設になることを期待したい。

アフリカでテニス普及の新たな試み

大会期間中、主催者のフランステニス連盟(FFT)が「フランス語話者のためのテニス連盟」という新たな取り組みの立ち上げを記念して開いたイベントは素晴らしかった。多くの人がフランス語を話すアフリカでテニスを普及させようという試みで、FFTはセネガル、コートジボワール、ベナンといったフランスの旧植民地でアカデミーを開こうとしている。アフリカには多くのクレーコートがあり、優れた潜在能力を持ったアスリートがたくさんいる。少しでも多くの人にテニスを始めるきっかけを提供しようというのがFFTの狙いだ。

有望な選手を育ててフランス代表として活躍させようというような打算的なものではなく、あくまでテニスの裾野を広げるための試み。資源を搾取したり、現地の人を借金漬けにしたりすることなく、スポーツをテーマにアフリカと関わっていこうというのは見事なアイデアだと思う。成功の保証がない中、英断を下したFFTのベルナール・ジューディセリ会長に敬意を表したい。

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