ホルムズ海峡でタンカー2隻攻撃、原油価格急騰
【テヘラン=岐部秀光】中東のホルムズ海峡近くのオマーン湾で13日、日本の船舶を含む2隻の石油タンカーが何者かの攻撃を受けて炎上した。ホルムズ海峡は中東産の原油を世界に向けて出荷する海上輸送の大動脈だ。攻撃の情報を受けて原油相場は即座に4%ほど上昇した。中東の地政学的リスクの高まりは、世界経済の先行きへの不安を高める。
タンカーのうちの1隻は、国華産業(東京・千代田)が運航するパナマ船籍のコクカ・クーレジャス。日本時間の午前11時45分ごろ攻撃を受けた。国華産業は三菱ガス化学が50%を出資する海運会社で、船はメタノールを運んでいた。
同社は13日夕、都内で記者会見を開き「砲撃を受けた」と説明した。日本人の乗船者はおらず、フィリピン人の21人の船員は避難したという。
国土交通省は攻撃者がだれかを特定できておらず、日本を標的にしたかも不明としている。攻撃を受けたもう1隻はマーシャル諸島船籍のフロント・アルテアだった。
攻撃があったホルムズ海峡近くの地域では5月にも、アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアのタンカーが「破壊行為」で損傷を受ける事件が起きたばかり。ボルトン米大統領補佐官は攻撃したのは「ほぼ確実にイランだ」と指摘。イランは関与を否定するなど緊張が高まっていた。

トランプ政権はイランの脅威が高まっているとして、原子力空母や戦略爆撃機をペルシャ湾付近に派遣している。周辺海域では偶発的な衝突が起こるリスクがくすぶる。
13日のタンカーへの攻撃は、安倍晋三首相が緊張を緩和しようとイランを訪問し、最高指導者のハメネイ師と会談するタイミングで起きた。首相は情報収集と乗組員の安全確保に万全を期すよう関係省庁に指示した。
ホルムズ海峡はサウジアラビアなど中東各国が原油を輸出する大動脈で、世界の消費国にとって交通の要衝だ。資源をもたない日本は原油の8~9割を中東に依存しており、ホルムズ海峡経由の輸送は欠かせない。
今回の船舶攻撃は世界中のメディアが一斉に報じ、原油価格が上昇した。国際指標となるニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は日本時間13日夜時点で1バレル53ドル前後で推移する。12日終値に比べ約4%高い。
原油は米中貿易戦争の激化を背景に世界経済が減速し、需要が落ち込むとの見方が台頭。供給がだぶつくとの観測から4月下旬以降、値下がり傾向が続いていたが、相場は急速に切り返した。
市場では「被害が続けば中東産原油の供給網に支障が出る可能性が意識され、上昇圧力が強まりそうだ」(野村証券の大越龍文シニアエコノミスト)との声が出ている。
世耕弘成経済産業相は13日夕、「現時点で日本のエネルギー供給にまったく問題は生じていない」としたが、原油価格が高止まりするとガソリンの値上がりなどを通して国民生活への影響が避けられない。