2019年8月26日(月)

「ビジネスは打率で検証を」 深津貴之 THE GUILD代表
#ファクトを活かそう 02

コラム(ビジネス)
2019/6/24 6:30
保存
共有
印刷
その他

ハンス・ロスリング氏の著書「ファクトフルネス」が世界で約100万部のベストセラーになっている。テクノロジーが発達する中でも、データを基に世の中や未来を正しくとらえる習慣をつけようと提唱する。第一線で活躍する経営者や社会学者に、データの読み解き方や、人間が陥りやすい思考、ファクトの探し方などについて聞いた。2回目はデザイン会社THE GUILD代表でUX/UIデザイナーの深津貴之氏。

日経は若手社会人と共に考える場を作ります(Twitter:@nikkei_jisedai

■施策を打つときは面で捉えて

――「ファクトフルネス」ではデータを正しくとらえられない原因として、「恐怖」や「焦り」など人間の持つ10の本能が挙げられていました。UX/UIデザインを通じて様々な企業をコンサルティングしてきた経験から、ビジネスパーソンが陥りやすい本能について教えてください。

ビジネスの上で陥りやすいのは、自分の知っていることや経験だけをベースに施策を組み立ててしまうケースです。「ファクトフルネス」の中で挙げられている、1つの知識をすべてに応用できると思い込む「パターン化本能」と「単純化本能」に近いといえるでしょう。施策が1つだけだと、正解に近い場所にいるのか、あさっての方向を向いているのかわかりません。

もちろん、運よく当たる人もいますが、地雷を踏んでしまう確率も高くなります。何かの施策を打つときは、当たりをつけた方向を大きなトレンドとして面でとらえることが重要です。その方向に沿った様々な施策を5、6個同時に打てば、方向として正しいかどうか打率で検証できるため、のるかそるかの賭け事にならなくて済みます。

ふかつ・たかゆき デザイン会社THE GUILD代表。クリエイティブプラットフォーム「note」を運営するピースオブケイクでCXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)も務める。

ふかつ・たかゆき デザイン会社THE GUILD代表。クリエイティブプラットフォーム「note」を運営するピースオブケイクでCXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)も務める。

例えば、スマートフォンのニュースアプリやブログサービスでは、ユーザーのサービス継続率を上げるために、「プッシュ通知」やメールでおすすめの記事を配信しています。物事を局所的にみている人は、過去に作ったサービスでプッシュ通知が成功した経験があると、それにこだわってしまう。新しいサービスでもプッシュ通知ばかり1日に100回送るといった施策に陥りがちです。

これは1つのKPIが施策の全てになってしまっている例で、特定の事象や数値を過大視しすぎる場合によく起きます。大事なのは、プッシュ通知が効いたときになぜ効いたのかを検証し、同じ面上にあると予想される施策、例えば毎週定期的に配信するコンテンツやメールなどを同時に打つことです。そうすることで成功の確率を高めることができます。

――どのようなタイプの人が誤った施策にはまりやすいと考えますか。

賢い人は、理論上考えたことだけで事業やサービスをモデル化してしまうことがあります。ロジックとしては完璧なのですが、自分の頭の中だけで考えると、偏りや思い込みなどの落とし穴にはまってしまいやすい。そのことに気が付かないまま、テストも実施せずに大きなプロジェクトに放り込んでしまう。これでは世に出してもうまくいきません。

「ファクトフルネス」でも書かれているように、どんな人間でも物事を無意識に自分の知っている枠組みの中でパターン化したり、特定の事象や数値を必要以上に重要と思い込んでしまったりする本能(過大視)があります。これは私も含め、人間の脳に組み込まれていることなので、完全に無くすことはできません。自分にはそういう本能が備わっていることに気がつき、修正を加えることで、思い込みや誤ったものの見方をしないように努力することが大切です。

特に日本人は物事をロジカルに掘ることを避けがちで、ぱっと見た感じで良いと思うものに飛びつきやすいように思います。長期的な成長曲線より、今期の売り上げといった目先の利益に目が行ってしまう人などが典型的な事例です。そのほかにも過去の成功体験を引きずって新しいものの導入が遅れたり、新しいものを無視して古いものに投資しすぎたりするケースもあります。

■専門家の共通意見は自分の判断より大体正しい

――インターネットなどで情報があふれている現代では、正しいデータに基づいた事実を探すのが難しくなっています。どのように情報収集をしていますか?

専門家の意見を集めるようにしています。政府のデータなど一次情報に当たっていると、膨大な情報の中から見つけなければならないので、時間がかかりすぎる。統計やデータ分析業界の中で信用に足る人をツイッターなどで5~10人フォローして、その中で共通している話題を抽出すると、今何が大事なのか、注目されているのかが大体わかります。統計の知識に関しては、統計の専門家を信用して動けば、まれに間違っているかもしれないけれど大体は正しい。

――誤った情報に基づいた過剰な不安感に惑わされないようにするには、どうすることが重要でしょうか。

まずは自分にとっての幸せが何かをしっかり考えることです。「過去の自分より今の自分が幸せか」という基準で考えれば、未来がよくなろうが悪くなろうが自分の幸せにはあまり関係がない。ただ、人口動態を見ても人口が減少し日本そのものが悪くなっていくことはほぼ確定なので、個人的には若く時間的な余裕がある人は海外に積極的に出るほうが良いと思います。

若い方だけでなくビジネスパーソン全てに言えることですが、1つの技術や事象に賭けることはやめたほうがよいと思います。リンゴの木からどのリンゴがいつ落ちるか特定するのが難しいことは誰もが知っています。しかし、世の中の企業は特定のリンゴが落ちる時期を予測することに注力しすぎています。例えば投資をする際には、特定のドローン会社の技術ではなく、ドローン業界全体に賭けるべきです。大事なのは秋になったらリンゴが落ちるということ、つまりドローン業界が次の時代に重要になると知っていることです。リンゴが秋に落ちることを知っていれば、木の下にシートを敷いておけば秋に一気に収穫できる。ドローン業界全体に賭けることで成功する確率が上がるというのもリンゴの話と同じことです。

今注目されているエンジニア業界でも、特定の技術を高めるのではなく、IT全般を学ぶべきだと思います。個別の言語ではなくプログラミングの設計自体がどうなっているか仕組みを学んでおけば、どのようなプログラムにもある程度対応できるようになります。

■「試して実践」の繰り返し

――データに基づいて世の中を正しく見るためにはどのような訓練が必要なのでしょうか。

「試して実践する」の繰り返しですね。私がデータを基に物事を判断することを本格的に意識し始めたのは大学生のころ、カードゲームやギャンブルを通じてです。ゲームやギャンブルは確率をやりとりするもの。期待値が1.01で利幅は少なくても1万回勝てばよい、などゲームを通じて確率で物事を考えられるようになりました。極端に言えば、確率で考えるとギャンブルはやらないことが一番損をしない選択肢ですが。

社会人になってからは、UX/UIデザイナーという仕事柄、脳の意思決定がどういう仕組みで動いているか理解するため、本を読んで学びました。脳の意思決定の仕組みを統計やデータと関連付けて学べる学問として行動心理学について学び、データに基づいて世の中を見る習慣が強化されたと感じています。

日本経済新聞社は7月11日、『ファクトフルネス』の共著者を招いた記念講演を開催します。著書で提唱している「データを基に世界を正しく見る習慣」の大切さを語っていただきます。詳細はTwitter(@nikkei_jisedaiから。

「#ファクトを活かそう」記事一覧】
(1)データのない世界を歩め インテグラル代表 佐山展生氏
(2)ビジネスは打率で検証を THE GUILD代表 深津貴之氏
(3)エビデンスで考える APU学長 出口治明氏
(4)問題意識がファクトを生む 社会学者 上野千鶴子氏
(5)データで解像度を上げる アル代表 古川健介氏
(6)物事を常に問い続けよ CAMPFIRE代表 家入一真氏

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。