「キャッシュレス、金融の垣根壊す」 デジタルサミット

「世界デジタルサミット2019」(日本経済新聞社・総務省主催)は11日閉幕した。2日間の議論の最後として、「デジタルテクノロジー(DT)がもたらすキャッシュレス社会」をテーマにパネル討論した。金融とIT(情報技術)を融合させるフィンテック企業のトップらが登壇。日本でのキャッシュレス決済の可能性について議論を交わした。
クラウド会計ソフトのマネーフォワードの辻庸介社長は「キャッシュレス決済を入り口に、資産運用やレンディング(融資)など他の金融サービスの利用が増えている」と指摘した。同社は会計ソフトで蓄積したデータを人工知能(AI)で分析し、中小企業のオンライン融資を展開する。「フィンテックは金融以外のあらゆる産業の業務やサービスを自動化できる」とみている。
銀行は銀行法、貸金業者は貸金業法といったように業態ごとの縦割りの規制がある。IT企業やスタートアップ企業の金融業参入が相次ぐなか、金融庁は金融法制の横断的な見直しを進めている。辻氏は技術革新を後押しするには「利用者を保護しながら、扱う金融商品のリスクに応じた法規制が必要になる」と述べた。
スマートフォン決済を手掛けるOrigami(オリガミ、東京・港)の康井義貴社長も、異業種間で金融データの連携が必要だと説く。「キャッシュレスを普及させるには、経済圏などで利用者を囲い込まないオープンな仕組みが不可欠だ」と主張した。
QRコード決済を使ったサービスが増える一方で、日本は先進国の中でも現金主義が根強い。国は2025年をめどにキャッシュレス決済の比率を2倍の40%に引き上げる目標を掲げている。
フィンテックは、グローバルで進展している。ブロックチェーン(分散型台帳)関連のインプット・アウトプット・ホンコン(IOHK)のチャールズ・ホスキンソン最高経営責任者(CEO)は「グローバル化が進む中、金融の世界でもインターネットのような開かれた仕組みが求められている。テクノロジーの進化で小さい組織でも技術革新を起こせる」と話した。
新興勢や異業種に対抗しようと、世界では既存の金融機関もフィンテックで存在感を増している。SBIリップルアジアの沖田貴史代表取締役はスウェーデンの国内銀行が始めた電子決済手段「スウィッシュ」を紹介。「北欧では銀行主導の決済サービスが急速に普及し、この流れがアジアに広がりつつある」と指摘した。

日本経済新聞社は2022年6月6日、7日の両日、「世界デジタルサミット2022」を開催します。メタバースの広がりなどますます進化するネット社会で「安心・安全」を育むための「デジタルトラスト」をどう醸成するか議論します。