2019年6月27日(木)

豪、揺れる報道の自由 公共放送に家宅捜索

南西ア・オセアニア
2019/6/12 5:50
保存
共有
印刷
その他

オーストラリアで報道の自由が脅かされるとの懸念が高まっている。6月に入り、連邦警察が相次ぎ公共放送本部や新聞記者の自宅を家宅捜索した。機密情報の漏洩などに関する捜査で、警察側は記者の訴追の可能性についても否定していない。5月の総選挙でモリソン政権が続投を決めた直後というタイミングに、政府が報道機関や内部告発者への圧力を強めるとの懸念も出ている。

家宅捜索後、ABCを出る連邦警察の捜査官(5日、シドニー)=AAP

家宅捜索後、ABCを出る連邦警察の捜査官(5日、シドニー)=AAP

豪公共放送ABCが捜索を受けたのは5日。午前11時半、シドニー中心部ウルティモにあるABCシドニー本部を連邦警察の捜査官3人が訪れ、捜索のための令状を提示した。ABCによると、令状には2人の記者とディレクターの名前が記されていた。

問題となったのは、ABCが2017年に報じた「アフガン・ファイル」と呼ばれる報道だ。アフガニスタンに派遣された豪特殊部隊が子どもを含む非武装の民間人などを違法に殺害した疑いがあると報じたもので、国防関係者から入手した機密情報に基づく。

令状に名前があった記者はこの報道を担当していた。連邦警察は記者のメールに加え、ABCの保持するデータへのアクセスを求めたという。

捜索は8時間以上に及び、ABC側は幹部のツイッターなどで随時、連邦警察の捜査官らの様子を公表した。7日にはバッタローズ会長が「記者や情報源となる人々が犯罪者として扱われるべきではない。あらゆる妨害や干渉と戦う」と徹底抗戦の構えをみせた。

連邦警察はABC捜索の前日に当たる4日、首都キャンベラでメディアグループ、ニューズ・コープ・オーストラリアの記者の自宅も捜索している。政府が情報機関により強い監視権限を与えることを検討しているとした18年4月の記事に関する捜索だ。

当局側は5日に発表した声明で2件の捜索に関連性はないと言明した。そのうえで捜索はいずれも「刑法に違反して機密情報を公表した疑いに関するもので、豪州の安全保障を損なう恐れがある」と説明している。

モリソン首相は6日「政権は報道の自由を支持する」としたうえで、「捜索は連邦警察が行っており、政権や閣僚が指示したものではない」と強調した。

ただ、すでに掲載や放送から1年以上が経過した報道に対し、このタイミングで2日続けて連邦警察が捜索を行った波紋は大きい。モリソン政権は5月18日の総選挙で大方の予想を覆し続投を決めたばかりだ。総選挙前に捜索を行えば、野党により「『報道の自由』が争点化されかねず、タイミングを計っていた」(シドニー工科大学のピーター・フレイ教授)可能性はある。

オーストラリア国立大学のジャシンタ・キャロル上級研究員は「今回の捜索は第一に、機密情報の(公表ではなく)漏洩に関するものだ」として、報道機関だけでなく内部告発者に対する捜査でもあると指摘する。連邦警察側も6日に会見し、同様の趣旨を認めている。豪メディアなどによると、ABCのアフガン・ファイル報道を巡っては、18年に情報漏洩の疑いで国防省の元顧問弁護士の男性がすでに逮捕・起訴されている。

専門の顧問弁護士を抱え抗戦姿勢を見せるメディアに対し、内部告発者は組織内の個人の場合がほとんどだ。今回の捜索は、こうした潜在的な内部告発者にとって大きな脅威となりうる。

国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」による世界各国の報道自由度ランキングでは、豪州は21位と、日本(67位)や米国(48位)、英国(33位)を上回る。豪州では過去の判例から報道の自由は認められ尊重されているが「豪州憲法に(報道の自由を明記した)米国の合衆国憲法修正第1条のような文言はなく、報道の自由は憲法では保障されていない」(フレイ教授)

現時点では、記者の逮捕や法人としての報道機関の起訴はない。6日に記者会見した連邦警察は記者の訴追について「まだ決めていない」と述べるにとどめた。フレイ教授は「国家の安全保障と言論、報道の自由のバランスは難しい問題ではある」としたうえで、今後、連邦警察が記者の逮捕や訴追に踏み切れば「豪州は完全に未知の世界に入ることになる」と警告する。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報