2019年9月19日(木)

ウーバーがGAFAになれない理由 ビジネスモデル解剖
グロービス経営大学院・嶋田毅教授が読み解く

2019/6/14 4:30
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ユニコーン企業の筆頭格とされてきたウーバーテクノロジーズがついに株式公開(IPO)を果たしました。しかし、先んじてIPOを果たした同業のリフト同様、株価は若干伸び悩んでいます。その要因の一つに、赤字体質のビジネスモデルがあります。現時点では、GAFAのような成長も難しそうです。グロービス経営大学院の嶋田毅教授が、ビジネススクールで学ぶスキル「ビジネスプランニング」の観点から解説します(もっと学びたい方はこちら)

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ビジネスモデルという言葉は人によって多少定義は異なりますが、端的に言えば、「誰に」「どんな価値を」「どう提供し」「どう稼ぐか」ということです。特にIT企業の場合、この中でも「どう稼ぐか=利益方程式」に注目が集まる傾向があります。

利益方程式もいろいろな要素を含む概念ですが、製品・サービスの収益性や資産の回転率だけではなく、「誰に課金するのか」「儲けのメリハリ(製品間のメリハリ、顧客間のメリハリなど)をどうつけるのか」「どのくらい先行投資をして、どのタイミングでキャッシュフローがプラスに転じるのか」などがITビジネスでは重視されます。特に最後の点は皆が注目するポイントです。

■プラットフォーム企業の果実

その理由は、近年のGAFAに代表されるプラットフォーム企業が莫大な富を生み出す可能性が高く、ウーバーもまさにプラットフォーム企業だからです。そして多くのプラットフォーム企業は、赤字のうちにIPOを果たしてきました。1996年にIPOを果たしたアマゾン・ドット・コムはその代表的企業ですし、2013年上場のツイッターなどもそうです。IPOではありませんが、グーグルに買収されたYouTubeは一円も売り上げをあげないうちに(コストしか生じていないうちに)、16億5000万ドル の企業価値がつきました。

なぜ赤字でも上場できるかと言えば、現時点では赤字でも、その独自のプラットフォームがユーザーを引き付け、長い目で見ればキャッシュを生み出すに違いないと投資家(あるいは売却先)が考えるからです。

プラットフォームビジネスのポイントは、数が数を呼び、どんどん利便性が上がっていくことです。これを「ネットワーク外部性」と呼びます。特に多くの成功したプラットフォーム企業は同じタイプのユーザーだけではなく、2つあるいはそれ以上のタイプのユーザーを抱えており、それぞれ反対側のユーザーが増えると、もう一方の側のユーザーも増えるという傾向があります。図2のアマゾンであれば、売り手が増え、品揃えがよくなれば買い手は増えますし、買い手が増えれば、ますますそこで売りたいと考える売り手が増えていきます。

利便性の高いプラットフォーム構築には通常、「持ちだし」となる先行投資が必要です。それゆえ、最初から黒字化することはまれです。しかし、上記のような好循環が自走しだすと、一気に単位当たりのコストが下がり、黒字化していくのです。アマゾンのケースでは、上場してからも数年は「実はこのビジネスモデルは儲からないのでは」という投資家の懸念もあったのですが、同社はそれを払拭し、設立から7年程度で黒字化 を果たしました。

プラットフォームのもう一つ大きな武器は、ビッグデータが収集できることです。アマゾンのリコメンデーションがその典型です。ユーザーがアマゾンを利用すれば利用するほど、効果的なリコメンデーションが行えるようになります。その便利さに慣れたユーザーは、ますますそのサービスを気に入ります。その結果、最も規模が大きく、低コストと利便性を提供できるプラットフォームは、顧客の維持率も上がり、ますます後続との差を広げていくのです。

話をウーバーに戻しましょう。記事にもあるように、創業から9年たった今も、売上高112億ドルに対し30億ドルの赤字です。なお、ウーバーは運転手から25%のフィーを得るという課金モデルを採用していますので、ウーバーのサービスを用いた昨年度の全取引額は450億ドル程度と考えられます。

ウーバーのビジネスモデルの難しさは、アマゾンなどとは異なり、商品ラインアップを広げにくいことです。ビッグデータも確かに集まりますが、それを用いてさらなる提供価値や売り上げにつなげることも簡単ではありません。グーグルやフェイスブックといったプラットフォーム企業が用いている広告モデルとも、(トライはしていますが)必ずしも相性はよくありません。さらに、規模拡大したからといって、ドライバーの確保などはその都市ごとに行う必要がありますから、IT投資などを別にすると、規模拡大によるコストダウンの効果もそこまで強くありません。運賃設定やオペレーションをより効率化したりすることで生産性は高まる可能性もありますが、それだけでは赤字から抜け出せないと筆者は考えます。

費用削減に必要な完全自動運転

ウーバーもこうしたことには気付いており、現状のマッチングを中心に据える限り、キャッシュフローが黒字に転じるとはみていません。実は彼らはもう少し先の技術を見ています。それは自動運転です。自動運転が可能になれば、運転手への支払いはゼロになります。現在、それがおよそ350億ドルですから、費用の削減効果は極めて大きいでしょう。また、ときおり起きる運転手の乗客への暴行事件などといったトラブルをなくす効果もあります。

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ただし、自動運転は簡単なものではありません。たとえば日本では現在、レベル4と言われる自動運転の段階を現実的な目標として設定しています。これは、高速道路など特定の条件が揃った場合における自動運転です。それに対して、ウーバーが目指す、ビジネス上必要となる自動運転はレベル5、つまり完全な自動運転です。

自動運転への取り組みは1社ではできませんから、ウーバーもトヨタ自動車など、世界を代表するメーカーも巻き込んで進めています。他の分野のベンチャー企業も参画しています。ただ、完全自動運転の実現可能性についてはさまざまな予測はあるものの、10年程度で実現にまで至ることはないという意見が主流のようです。当面は、新技術開発への投資が莫大にかかる点が、株主のウーバーへの懐疑となっているのです。

とはいえ、ウーバーが自動運転進化のまさにエンジンになっているのは間違いありません。ウーバー1社のみを見れば「時代のあだ花」に終わる可能性も高いのですが、難しいことにチャレンジする企業が存在するからこそ人や知恵やお金が集まり世の中が進化するという発想を大切にするシリコンバレーには学ぶところ大です。

はじめてのビジネスプランニングについてもっと知りたい方はこちらhttps://hodai.globis.co.jp/courses/4a26651f(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修
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