米中にすくむG20 協調欠くリスクへの備え 財務相会議

福岡市で開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は9日夕、2日間の討議を終えて閉幕した。世界経済の下振れリスクに貿易摩擦の激化を挙げ「さらなる行動をとる用意がある」と明記。協調して対応する重要性を訴えた。デジタル課税など前進した分野もあるが、最大のテーマである米中摩擦の緩和で具体的な成果はなく、G20が米中対立にすくむ構図が鮮明になった。
日本が初めて議長国を務めたG20。麻生太郎財務相は会議閉幕後の記者会見で「日本として直ちに(行動を)考えているわけではない」と述べた。日銀の黒田東彦総裁は「リスクが顕現した場合にきちんと対応しようとしたことだ」と語った。
デジタル経済に対応する新たな国際法人課税のルールについて2020年中の最終合意をめざすことも確認するなど国際社会の協調姿勢をある程度、示すことができた部分もある。企業誘致を狙った税金引き下げ競争に歯止めをかけるため、法人税に各国共通の「最低税率」の導入を目指す方針でも一致した。
問題は、世界経済のリスクへの対応は「決意表明」にとどまり、実際は米中という二大国の対立の行方を見守るほかなかったことだ。

G20は世界経済について今年後半から来年にかけて緩やかに上向くとの見通しを維持。そのうえで「リスクは依然として下方に傾いている。何よりも、貿易と地政を巡る緊張は増大してきた」と共同声明で指摘したが、米中の名指しは避けた。だが実際の議論では米中の貿易摩擦に各国から懸念の声が相次いだ。
フランスのルメール経済・財務相は9日の記者会見で米中貿易摩擦について「経済成長に長く根深い影響を与える」と断じ、多国間の枠組みで問題を解決すべきだと訴えた。同行筋によると、8日の会議では欧州勢を中心に米中摩擦への批判が相次いだが、ムニューシン米財務長官はこう切り返したという。「決めるのはトランプ米大統領だ。私ではなくトランプ氏に言ってほしい」
財務省幹部はこうした議論の状況を「多くの国から懸念が出た」と説明した。「すべての国」と言い切れないのは、当事者の米国が自国を非難する議論に乗らないことを意味する。一方、中国側の発表によると、中国人民銀行の易綱総裁は会議で「中国のマクロ政策の余地は大きく、様々な不確実性に対応する能力がある」と言い放った。
米中の対立が鋭さを増し、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は会議閉幕に合わせた声明で「世界経済の主な脅威は継続する貿易摩擦に根ざしている」とくぎを刺さざるを得なかった。
麻生氏は貿易問題は貿易相会合で話し合うべきだとの認識を記者団に重ねて示したが、同じ9日に茨城県つくば市で開いたG20貿易相会議が採択した共同声明も「貿易上の緊張に対応し、互恵的な貿易関係を醸成する」という内容にとどまった。「反保護主義」に関する文言は2年連続で盛り込めず、貿易交渉を担う米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は出席すらしなかった。
6月下旬の大阪でのG20首脳会議(G20サミット)を前に、世界が米中に振り回される状況は一段と深刻になっている。

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