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始まりから不変のルール「野球は3アウト」の妙

編集委員 篠山正幸

「フォーアウトを取る野球は難しいということですねえ」。巨人・原辰徳監督が、しみじみと語ったのは岡本和真の"凡飛"が、東京ドームの天井に当たって安打となったことから逆転勝ちした中日戦(5月2日)のあとだった。フォーアウト? 待てよ、そういえばなぜ、野球の攻守交代はツーアウト制でもなく、フォーアウト制でもなく、スリーアウト制なのだろう。

取れるはずのアウトを取れないと…

あまりにも当たり前すぎて、普段は意識しないが「スリーアウトでチェンジ」というルールは、ほどよいゲーム性を野球に与える、という意味で絶妙のようだ。

5月2日の中日戦で天井へ当たる三塁適時内野安打を放つ巨人・岡本=共同

9イニング制と相まって、よほどの実力差がないかぎり、いわゆる"ラグビースコア"のような点数にはならず、試合時間もアマチュアからプロに至るまで、他のスポーツや映画などのエンターテインメントと同程度の2~3時間程度に収まる。これがツーアウト制やフォーアウト制だと、またややこしくなって、単にイニング数を増やしたり減らしたりするだけで、時間や得点数をうまく調整できるだろうか、ということになってくる。

もし、失策などがあって、取れるはずのアウトを取れず、守備側が1イニングのなかで、本来は要らない4つ目、あるいは5つ目のアウトを取らねばならない羽目になった場合、試合がたちまち壊れる恐れが出てくる。

特に天井弾といった特異な"事故"で、余計なアウトを取らなければならなくなった場合は、誰に責任があるわけでもないだけに、やるせないものがある。さきの原監督のコメントは、スリーアウト制だから保たれている野球というゲームのバランスの妙に触れたもの、ともいえる。

場面を説明しよう。1-3で迎えた五回、巨人は炭谷銀仁朗のソロで2-3と迫り、なお2死一、二塁と走者をためた。ここで打席に立った4番岡本は初球を遊撃上方に打ち上げた。ドームの天井に当たって、軌道が変わった打球を誰も捕球できず、グラウンドに落下。記録は三塁への安打となった。これで二塁走者が返り、同点。すかさず陽岱鋼が勝ち越し3ラン……。

試合後の原監督の口調には、中日側への同情のニュアンスが含まれていた。「(向こうは)スリーアウトと思ったろうし、我々もそう思った」

原監督は「エラーも大きな得点(失点)に結びつくし……」ともいった。天井弾は不可抗力として、もし失策や振り逃げなど、取れるところでアウトを取れずに走者をためてしまうと、野球の神様はたちどころに"ペナルティー"を下し、大量失点につながる。原監督のコメントはそういう野球の厳しさをも示していた。

それにしても、いつから野球はスリーアウトとなったのか。

最初の野球規則とされるルールができたのは1845年9月23日に米国のニッカーボッカー・ベース・ボール・クラブが制定したものといわれる。

なぜか変わらぬ「アウトは3つ」

当初は投球はアンダースローに限定され、打者が高い球とか低い球とか、自分の打ちやすい球を要求できた時期もあった。また試合はどちらかが21点を取ったら成立するとか、飛球はノーバウンドでなく、ワンバウンドで捕球してもアウトとか、現在のルールとかなり違う点があった。

ところが、アウトの数は3つと、今と同じように決まっていた。同クラブが定めたルールの第15条にいわく「スリー・アウトで攻守交替」。つまりスリーアウト制は、野球の"事始め"から不変のまま来たわけだ。まるで宇宙を成り立たせる根本原理のように。

以上は野球殿堂博物館(東京都文京区)が米国の文献を翻訳し、まとめた資料によるものだ。

話はそれるが、東京ドーム内にある野球殿堂博物館はこの6月12日に開館60周年を迎える。殿堂入りした選手・関係者のプレートのほか、野球の歴史がわかる展示がある。文献資料も豊富で、記者もお世話になっている。夏休みの期間には「変化球が曲がるわけ」を探る実験など、子どもたちの自由研究向けのイベントも行っているので、興味のある方は同館のホームページなどで確認していただきたい。

走者を出しても返さないヤクルト・石川の技巧は、3アウト制という絶妙なバランスの上に成り立っている=共同

スリーアウト制に戻る。近代野球の始まりの「そもそも」のところからスリーアウト制で変わらずに来た、ということは興味深いことだ。なぜなら他の多くのルールは制定後半世紀ほどの間に、かなり変動しているからだ。

例えば「四球」は最初「九球」だった。つまりボール球9つで打者は一塁への進塁権を与えられた。このルールができたのが1876年。そこから8球、7球と徐々に減り、89年に「四球」になっている。

また、投手がオーバーハンドで投げることが許されたのは84年になってからだった。

スリーアウト制の不動ぶりはかなり異例なのだ。ツーアウト制や、フォーアウト制など一顧だにされないほど、スリーアウト制は憲法的な重みをもち、この部分だけはルール作りをつかさどってきた人たちの意識の片隅にすら上らなかった、というようにもみえる。

選手の様々なスタイルも3アウト制だからこそ

スリーアウト制は多様な才能を野球に呼び寄せるための不可欠な仕掛けになっているようにも思える。

例えば、技巧派の極といえるヤクルト・石川雅規。

昨季までの17シーズンで5度「被安打王」になっている石川はとにかく走者を出す。印象としては常に走者が一、二塁にいる感じ。それでもホームには返さず、3つめのアウトを取る。粘りに粘ってスリーアウト・チェンジにもっていく技術は、もはや芸術の域に達している。ちなみに交流戦の日本ハム戦(6月5日、札幌ドーム)では8回3安打、無四球、無失点の快投をしており、相手を完璧に牛耳る投球もできるのだが……。

それはともかく、ふだんの石川ペースだと、フォーアウト制やファイブアウト制では、かなり厳しいことになるだろう。

大谷翔平(日本ハム―エンゼルス)のように、被打率が低く、相手に有無を言わせない投球ができるなら、フォーアウト制でもファイブアウト制でも、そこそこ抑えられて野球になるだろうが、そうでない投手にとってはスリーアウト制が、絶妙のセーフティーネットになっている。相手の打順の巡りなどを見定めた駆け引きなど、多様な勝負が成立し、多様な投手が存在することができる。

ツーアウト制を想定してみるとどうか。ゴールマウスが極小なサッカーみたいになって、あまりに点が入らない、ということになりそうだ。何とも退屈で、お金をとって見せるスポーツになりうるかどうか。各チームは「つなぎの攻撃」などとは言っていられないので、とにかく一発を放てる打者だけを集める、ということになるのだろうか。

スリーアウト制だから、技巧派、速球派、いろいろなスタイルの投手が存在しうるし、多種多様な技能を持った打者の存在が許される――。

天井弾という「幻の3アウト目」から、あらぬ想像をかきたててしまったが、当たり前過ぎるルールの「なぜ」を考えるのも、ちょっとした頭の体操になって、たまにはいいかもしれない。

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