2019年7月16日(火)

米中対立、半導体受託大手のTSMCに試練
ファーウェイ向け受注減、揺らぐ成長戦略

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中国・台湾
アジアBiz
2019/6/5 22:16
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【新竹=伊原健作】半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が試練に直面している。成長のけん引役になるはずだった中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が米国政府から制裁を受けているためだ。劉徳音董事長は5日、同社向けの「受注は(前年より)減少する」と述べた。カリスマ創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏の引退から1年。新経営陣は難しいかじ取りを迫られている。

「米中貿易戦争は半導体産業に悪影響をもたらす。産業障壁を築くことにすべての半導体企業が反対だ」。5日、台湾北部・新竹市内で開いた株主総会後の記者会見で劉氏は米中貿易戦争に不満をあらわにした。

同社は韓国サムスン電子、米インテルと並び世界半導体の「ビッグ3」の一角を占める。米クアルコムやエヌビディアなどファブレス(工場なし)企業から半導体製造を請け負う。半導体受託生産で5割超の世界シェアを握り「半導体産業のインフラ」と呼ばれる。

「10年後も世界はTSMCを必要とするだろう」。こう強調して引退した張氏から、経営を引き継いだのが1年前。劉氏と魏哲家・最高経営責任者(CEO)の2頭体制を取り巻く状況は米中摩擦で一変した。

TSMCの劉徳音董事長(5日、新竹市内での株主総会)

TSMCの劉徳音董事長(5日、新竹市内での株主総会)

劉氏らがスマートフォン(スマホ)市場失速で受注が伸び悩む米顧客に代わり、けん引役と当て込んでいたのが中国顧客だった。中でもファーウェイ傘下で半導体の設計・開発を担う海思半導体(ハイシリコン)は、回路線幅を7ナノ(ナノは10億分の1)メートルまで微細化する最先端技術を採用する重要顧客だった。

中国顧客向け売上高比率は2019年1~3月期に18%と5年前に比べ10ポイント上昇。特にハイシリコンは全売上高の約1割を占めるまでに存在感が増していた。一段の受注増に備え、昨年5月に中国・南京で主力級工場を稼働した矢先だった。

そこに直撃したのが米政府が5月に発動したファーウェイとの事実上の取引禁止措置だ。ファーウェイのスマホ新製品の取り扱いを延期する動きが世界で広がるほか、クアルコムなど米半導体大手や、設計の基盤技術を供給する英アーム・ホールディングスも取引を一時停止したもようだ。

TSMCの魏哲家CEO(5日、新竹市内での株主総会)

TSMCの魏哲家CEO(5日、新竹市内での株主総会)

劉氏は5日、ハイシリコン向けの受注が前年を下回りそうだと明らかにしたうえで、「スマホ需要の減少で南京工場の稼働率が下がってきている」と述べた。

TSMCは他の米国以外の半導体メーカーと同様、ファーウェイとの取引を継続する方針を変えていない。米国由来の技術などの市場価値が製品全体の25%以上なら禁輸対象になるが、米の製造装置は慣例上算入する必要がないためという。ただ劉氏は「顧客の最終製品の需要が減退すれば、我々の受注も影響を受ける」と話す。

業績への影響は避けられない。英リフィニティブがまとめたアナリスト予想の平均によると、19年12月期の純利益は7期連続で最高となった前期から一転、前期比5%減に落ち込む見通しだ。劉氏も「下半期(7~12月期)は改善傾向を見込むが、不透明要因も多い」と貿易戦争の長期化に身構える。

「核心的価値を守る」。劉氏はこの日、張氏から経営を引き継いだ自身の使命について強調した。知的財産など開発に必要なプラットフォームを提供し、顧客支援の役割に徹するのが張氏が築いた事業モデル。そのモデルを守り、成長を持続できるか。新経営陣は重い課題を背負った。

         ◇

世界の半導体「ビッグ3」の中で、台湾積体電路製造(TSMC)は強固な収益構造を持つ。顧客との強い結びつきを高収益に結びつけている。ただ米中の顧客の需要が鈍くなり、売上高が伸び悩む懸念がある。

同社の収益構造を象徴するのが、現金を効率よく稼ぐ力を示す「売上高営業キャッシュフロー比率」(CFマージン)だ。2018年12月期に57%と、米インテル(42%)や韓国サムスン電子(27%)を上回る。サムスンは他の2社より事業分野が広い面がある。

CFマージンが高いのは高度な半導体の製造でTSMCが欠かせず、顧客と好条件で取引できているためだ。1兆円超の設備投資を続け、競争力を維持する原動力となっている。

課題は売上高をいかに伸ばすかだ。16年12月期まではスマホ需要を取り込み増収率が5年連続で10%を超えたが、18年12月期までの2年間は平均4%に鈍った。自社の投資効率を上回る投資先を探すのは難しく、M&A(合併・買収)にも慎重だ。足元の株価も上値が重くなっている。

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