2019年9月20日(金)

FRBが緩和新手法検討 物価目標の見直しも

2019/6/5 19:30
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パウエル議長は新たな金融緩和策を検討する考えを示した(4日、シカゴ)=AP

パウエル議長は新たな金融緩和策を検討する考えを示した(4日、シカゴ)=AP

【シカゴ=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)が景気悪化に備え、金融緩和の新手法の本格検討に入った。4~5日に開いた討論会では、パウエル議長が「次の景気悪化時には政策金利の下限に直面する」と述べ、利下げ余地の乏しさに懸念を表明した。FRB内には新たに長期金利を操作して市中金利を低めに誘導する案や、2%の物価上昇率目標を修正する案などが浮上している。

FRBは4日から2日間の日程で、金融政策の枠組みを幅広く話し合う討論会をシカゴで開いた。冒頭で講演したパウエル氏は、米国と中国の貿易戦争を懸念して「米景気を注視し、成長を持続させるため適切な行動をとる」と表明した。2015年末から続いてきた利上げ局面が完全に終了し、次の政策変更が利下げになる可能性を初めて示唆した。

もっとも、現在の政策金利は2.25~2.50%にとどまり、景気悪化時の利下げ余地は乏しい。戦後の米国の政策金利は平均7%程度あり、景気後退期には平均5.5%も政策金利を引き下げて経済全体の底割れを防いできた。08年の金融危機前も政策金利は5%台を維持しており、これほど利下げ余地が乏しいのは歴史的に異例だ。

パウエル氏は次の景気悪化時は利下げだけでは食い止められず「あらゆる手段が必要になる」とも述べた。量的緩和を再発動する可能性を強調したものの「伝統的手段(利下げ)ほど完璧ではない」とも指摘し、新たな金融緩和の手法を検討する考えを表明した。

具体策については「議論は極めて初期の段階」として深く言及するのを避けた。ただ、パウエル氏は「埋め合わせ戦略」という表現を使い、2%のインフレ目標を一時的に緩め、金融緩和を長期化させる手法に触れた。

FRB内で浮上しているのは、景気後退時に物価が下振れした場合、その後の景気回復局面で2%を上回るインフレ率を容認し、後退期と回復期の平均で2%の物価上昇率を実現する考えだ。市場参加者はFRBの金融緩和が長引くと予想でき、パウエル氏も「過去の研究では消費や投資の押し上げ効果が見込めることがわかっている」と指摘した。

政策金利の誘導目標を、短期のフェデラルファンド(FF)金利だけでなく、長期金利に広げる案もある。長期金利は住宅ローンや企業向け貸し出しと連動しており、市中金利を全体的に押し下げる効果があるからだ。

経済学者で現体制の理論的支柱であるクラリダ副議長は「FF金利がゼロにまで下がれば、長期金利に上限を設ける手法を採用する可能性がある」と言及したことがある。日銀は16年から「長短金利操作」を採用して長期金利をゼロ近辺に誘導しているが、実はFRBも第2次世界大戦時に長期金利に上限を設けて操作した経験がある。

FRBは年内の米連邦公開市場委員会(FOMC)で新たな緩和手法の研究を続け、20年にも新手法の採用の是非を決定する。ただ、長期金利の引き下げや物価目標の見直しだけで、これまでの利下げのような金融緩和効果を得るのは難しい。

金融政策研究の権威であるジョン・テイラー米スタンフォード大教授も討論会に参加したが「インフレ目標は変更すべきでない」とクギをさした。裁量的な政策運用はかえって中央銀行の信頼性を損ない、企業や消費者のインフレ期待を高める結果は得られないとみるからだ。

政策金利を引き上げられないのは、市中全体の金利水準が下がったためだ。その要因の一つは、少子高齢化で住宅ローンなどの借り入れ需要が減少し、貸出資金が余っていることにある。生産性の低迷で潜在成長率そのものが高まらないことも、低金利の原因だ。

4~5日のシカゴでの討論会にはFRBの歴代正副議長や全米の学識経験者ら重厚なメンバーがそろったが、連邦政府や産業界からの参加はほとんどなかった。経済全体の「体温」を高めるには、中央銀行の金融政策だけでなく、財政政策や構造改革と組み合わせた議論が必要になる。

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