2019年7月16日(火)

天皇陵の素顔(上)「閉じた聖域」戦後から
時を刻む

関西タイムライン
コラム(地域)
関西
2019/6/6 7:01
保存
共有
印刷
その他

大阪府の百舌鳥(もず)・古市古墳群(5世紀)が世界文化遺産に登録される見通しとなった。構成資産の古墳49基のうち29基は宮内庁が陵墓として管理し、厳しく公開を制限している。保全の現場を訪ね、貴重な歴史遺産をいかに未来に引き継ぐべきかを探った。

古市古墳群の中核、誉田(こんだ)御廟山(ごびょうやま)古墳(応神天皇陵、羽曳野市)から南東へ約6キロ。二上山麓に春日向山古墳(太子町)がある。聖徳太子の父、用明天皇陵に宮内庁が治定している。

命日の5月23日、「正辰祭(しょうしんさい)」が行われた。紺色の制服姿の職員5人がきびきびとした動作で、新緑に包まれた陵の前にある拝所に整列。米や酒、海産物や野菜など三方に載せた供物を白木の台に献じて深々とこうべを垂れ、儀式は15分ほどで終わった。

用明天皇陵で行われた正辰祭(5月23日、大阪府太子町)

用明天皇陵で行われた正辰祭(5月23日、大阪府太子町)

「皇室に代わって職員が参拝する祭祀(さいし)」と徳田誠志・陵墓調査官は説明する。

こうした祭祀が各地の陵墓で行われる。没後100年の節目に行う「式年祭」をはじめ祭祀や陵墓によっては、皇族や被葬者に縁のある寺社の関係者が参列することもあるという。

陵墓に掲げられている制札。3項目の禁止事項が記してある

陵墓に掲げられている制札。3項目の禁止事項が記してある

■大部分は非公開

陵墓は1都2府30県に899ある。巨大古墳から小さな石塔まで形と大きさは様々だが、一般向けに設けてある参道や拝所を除いて非公開だ。「皇室のご先祖のお墓で祭祀の場。静安と尊厳を保つのに加え、安全確保や文化財的な価値の保護など様々な要素もあり、立ち入りを遠慮してもらっている」。徳田陵墓調査官はこう説明する。

こうした管理体制はいつからなのか。拝所に立つ制札が来歴を物語る。「みだりに域内に立ち入らぬこと」「魚鳥等を取らぬこと」「竹木等を切らぬこと」。堺市博物館の元学芸課主幹、樋口吉文さんは「文言は明治の初めからほぼ同じ。かつては周辺の住民にとって薪や肥料となる腐葉土、魚や鳥などの食料、農業用水といった生活の糧を調達する里山だったことを示す」と語る。

明治政府は天皇中心の国家体制の一環として、陵墓の整備と聖域化を推し進めた。大山古墳(仁徳天皇陵、堺市)の場合、墳丘を覆っていたササを伐採して松や杉、ヒノキなど約19万本を植林。3重目の周濠(しゅうごう)を再掘削し、威容を整えた。

市民も清掃担う

だが大切な暮らしの場から人々を閉め出すわけにはいかず、実際は清掃などの名目で引き続き立ち入りを許した。閉じた聖域となったのは、生活様式が変化した戦後になってからという。樋口さんは「生活に密着していたからこそ古墳は長年守られた」と強調する。

現在は5つの陵墓監区事務所で約200人の職員らが巡回や清掃、祭祀にあたる。陵墓課には保全や整備に伴う調査を担う陵墓調査官ら専門家7人が所属する。勤労奉仕で清掃に携わる市民も多く、2018年度は全国で延べ約7600人に上った。

ただ今後の人手不足を心配する声も上がっている。同庁は全国の陵墓で順に墳丘の水際などの補修を進めており、次はいよいよ大山古墳などの超巨大古墳に取りかかる。世界文化遺産に登録されれば来訪者も増え、対応に追われる。

宮内庁は「世界遺産登録に伴って管理方法や体制は変えない」との立場だが、既に保全のための調査などで外部研究者や地元自治体と連携を強めている。昨年に大山古墳を堺市と共同発掘したのも、その一環だ。

「陵墓は市街地の貴重な緑地でもある」点を重視するのは、遺跡保存に詳しい宗田好史・京都府立大副学長(都市計画学)。「地元の協力なしには守っていけない。陵墓の将来について国民的な合意に向けた議論が、世界遺産の次のステップになる」と話す。

(編集委員 竹内義治)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。