アップル発表会、「プライバシー保護」前面に
【シリコンバレー=中西豊紀】米アップルは3日、開発者向けの年次イベントを開き、プライバシー保護の強化策を発表した。外部のアプリ開発会社による個人情報の取得を難しくしたほか、クラウド内のデータ管理も厳格にした。データの乱用で批判をあびるフェイスブックなどとの違いを打ち出す狙い。同社と取引のあるアプリ開発会社も戦略転換を迫られそうだ。

現在、スマホユーザーが新たなアプリにログインしようとすると「フェイスブックでログイン」か「グーグルでログイン」と書かれたボタンがスマホ画面に出てくる場合が増えている。ボタンをクリックすれば自動的に個人情報がアプリ開発企業に送られ、アプリを使うためのユーザー登録が一瞬でできる仕組みだ。多くのアプリがこのシステムを使うなか、アップルは対抗する新サービスを発表した。
「アップルでログイン」と書かれたボタンをクリックすると、グーグルやフェイスブックのボタンと同様にアプリに登録ができる。違いはアプリ企業に電子メールアドレスを情報として送る場合、実際のアドレスとは違う別の専用アドレスを自動でつくる点だ。開発企業に自分のアドレスを教えずに、アプリにログインができる。
アプリ企業が専用アドレスに送ったメールは、実際のユーザーアドレスに転送される。さらにアプリ開発企業による個人の位置情報の捕捉はログイン時の一度しか認めない機能も盛り込んだ。ユーザーが知らないうちにアプリに位置情報を吸い上げられる事態を防ぐためだ。
「簡単だが、あなたのプライバシーを犠牲にしている。個人情報が知らないうちに見られていることもある」。この日の発表会で、アップル幹部のクレイグ・フェデリギ氏はグーグルとフェイスブックのサービスをやり玉にあげた。個人データをアプリ企業と共有する目的でサービスを展開する2社とアップルは全く違うとの立場だ。
だが、そのグーグルとフェイスブックも4月末と5月初旬に開かれたそれぞれの開発者会議で「プライバシー保護」をうたっている。ユーザーのプライバシー意識の変化と各社間の競争で、プライバシー保護は大きな潮流となっている。
その影響は各プラットフォームにつらなるアプリ開発企業にも及ぶ可能性が高い。特にアップルの新ログインサービスは位置情報を活用するアプリ企業に戦略転換を迫る。日本のアプリ企業もシリコンバレーで始まった「プライバシー合戦」とは無縁ではない。