2019年7月20日(土)

製薬大手、医療機器で体質強化 大日本住友や田辺三菱

ヘルスケア
関西
2019/6/7 22:39
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新薬開発に集中してきた製薬大手が、相次いでリハビリ用などの医療機器の開発を始めている。がん治療薬「オプジーボ」のような高額薬への批判から、薬価を引き下げる改革が続く。新たな事業モデルを探す一手として、神経系や感染症など新薬開発の注力領域の周辺で、新興勢の力を借りて開発を急ぐ。

メルティンはロボットの遠隔操作技術を開発する新興企業。人間が発する電気信号を読みとる技術を持つ

メルティンはロボットの遠隔操作技術を開発する新興企業。人間が発する電気信号を読みとる技術を持つ

リハビリ機器に知見生かす

大日本住友製薬は2021年ごろの発売を目指し、スタートアップ企業とリハビリ支援機器の開発を始めた。病気やけがで手足が動きにくくなった患者が装着し、リハビリ時に体が発する電気信号を読み取る。患者が自分だけでリハビリをする場合に、電気信号に基づいて効果的で痛みの少ない角度や力で手足を動かすようにサポートする。

ロボットを開発するメルティンMMI(東京・新宿)の技術が土台だ。大日本住友はパーキンソン病や統合失調症など神経領域の薬に強い。神経が刺激を受けることで機能が回復する「神経の可塑性」に関する知見などをメルティンと共有し開発に生かす。理学療法士が不足する医療機関や在宅医療で活用でき、機器の販売を念頭に置く。

大日本住友はがん、再生医療にも注力するがいずれも創薬事業だ。医療機器は新しい挑戦で、技術は社外に求めるしかない。メルティンには7億円を出資し、さらに大日本住友の西中重行執行役員がメルティン取締役を兼務する。同氏は「高齢化でリハビリは大きな市場に育つ」と期待する。

製薬会社が新薬にカネやヒトを投じることをやめるわけではない。注力事業の知見を生かし、その周辺で事業化を探る。

「機器と連携させれば、後発薬に対する高い参入障壁になる」。田辺三菱製薬の三津家正之社長は、米欧で22年度の発売を目指す機器についてこう話す。口から服用するパーキンソン病の治療薬を液剤にし、携帯可能なポンプで24時間皮下注射する仕組み。

「ビジネスモデル変革が必要」

薬の血中濃度を安定させることで手足が震えるといった症状が出にくくなる。貼り薬にポンプを付ける、患者の負担が少ないタイプも開発中だ。17年に約1200億円で買収したイスラエルの創薬スタートアップ、ニューロダームが持つ経口剤の液状化や機器開発のノウハウを生かす。

新薬開発は成功すれば大きな利益を生むが、同等の効果を持つ後発薬が出てくることが多い。これは患者に恩恵をもたらすが、新薬の収益を直撃する。機器と組みあわせれば特許切れ後も収益を得られると期待する。今夏以降、米欧で最終段階の臨床試験に入る。

製薬会社が着目するアプリも医療機器の一種だ。こうした異分野に進出するのは、国内薬価の下落が進んで収益を生みにくくなるとの危機感があるためだ。認知症予防の助言アプリを開発するエーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は「治療薬だけにとどまらないビジネスモデルへの変革が重要だ」と語る。

14年に発売された小野薬品工業の「オプジーボ」は高額で、医療費を増やすと批判された。政府は16年に薬価の新制度を導入。例えば年1500億円超売り上げた薬について、最大50%値下げできるようにした。

加えて21年度からは2年に1度だった薬価改定を毎年に切り替え、機動的に見直す。薬価は改定のたびに数%ずつ下落してきた。それでも製薬会社は、売り出した新薬について2年は同じ収益を見込めた。それが今後は1年だけになる。

世界で始まった競争

薬価が下がることは、高齢化が進むにつれ増大する医療費の抑制につながる。だからこそ日本は国の政策として安い後発薬を増やす。結果として医療用医薬品の市場は縮小する。米調査会社IQVIAは26年まで10年間、年平均で1%強ずつ縮むと予測した。縮小しすぎると開発の意欲をしぼませる問題もはらむ。

製薬大手による医療機器事業への進出は多くが開発段階で、モデルとなる成功例はまだ少ない。ただ、世界で開発競争が始まっている。米イーライ・リリーはパーキンソン病患者の体内に埋め込む薬剤注入機器を開発中。米国では米マイクロソフトなど世界的なIT(情報技術)大手の力を借りる例があり、機器と薬だけでなくシステムも事業の焦点となりつつある。日本で同様の流れが生まれる可能性がある。

異業種の成長に焦り

世界の製薬大手による新事業の取り組みは、医薬品の枠から飛び出すことはほとんどなかった。画期的な薬をいかに生みだすかに集中し、最近はM&A(合併・買収)を繰り返してきた。

財務リスクが膨らむ大胆な買収は、どの会社もできることではない。アイルランド製薬大手シャイアーを約6兆円で買収した武田薬品工業を日本企業がまねるのは難しい。スタートアップ企業であっても、有望な技術さえあれば数百億~数千億円でM&Aの対象にあがるようになった。

国内の薬価が下がる中で日本の製薬大手は海外開拓を急いできた。東証1部に上場する製薬企業の営業利益率でみて過去10年の間に11~14%程度を維持できた背景には、海外開拓や外資との連携の取り組みがある。だが、大手10社の売上高海外比率は平均で5割に達しようとしている。

医療の市場に広く目をやると、既存の製薬会社が取り組んでこなかった領域で新ビジネスが次々登場している。例えば手術支援ロボットだ。米インテュイティブサージカルの「ダビンチ」は日本でも浸透した。製薬大手には、創薬だけにこだわっていると事業の種を逃しかねないのではないか、という焦りもある。

製薬会社は医療機器という異分野に進み始めた。ロボット技術やITが交わる世界で簡単に事業が成り立つわけではない。だが、この分野のイノベーションのスピードは速い。将来の成長につなげられるかどうか、いち早く動く企業にしかチャンスは来ない。

(宮住達朗、高田倫志)

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