FRBじわり利下げ論、物価停滞で 市場も年内緩和観測

トランプ政権
2019/5/31 18:42
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【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)内で利下げ論が浮かんできた。物価上昇率が目標の2%を下回り続け、クラリダ副議長は30日に「物価停滞が続けば、適切な政策を考える」と利下げを排除しない姿勢を示した。トランプ米大統領が公然と利下げを要求するほか、金融市場も年内の利下げを85%という高い確率で織り込み、催促相場の様相も強まっている。

FRBは物価低迷への対応に苦慮している(1日、ワシントンで記者会見するパウエル議長)=AP

FRBは2018年12月を最後に、利上げを一時休止している。5月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は現時点では「金融政策を上下どちらかに動かす必然性はない」(パウエル議長)と判断し、当面は様子見する考えを示していた。

ただ、経済学者でFRBの理論的支柱であるクラリダ副議長は、30日のニューヨークでの講演で、利下げ論に踏み込んだ。米経済は堅調だとしつつも「想定以上に物価停滞が長引いたり、海外景気や金融市場の下振れリスクが顕在化したりすれば、適切な金融政策スタンスを考える」と表明した。次の政策変更が利上げではなく利下げになる可能性を示した形だ。

FRB内で利下げ論が浮かんできたのは、米国の物価停滞が深刻になってきたからだ。米商務省が31日発表した個人消費支出(PCE)物価指数は、4月の上昇率が前年同月比1.5%にとどまり、6カ月連続で2%を下回った。食品・エネルギーを除くコアも同1.6%と、4カ月連続で2%を切っている。

物価上昇率は18年中こそ目標の2%前後を維持していたものの、19年に入ってから鈍化し、むしろ2%から遠ざかっている。企業や消費者が将来にわたって物価上昇率が伸び悩むと判断すれば、値上げや賃上げを抑え、日本のように慢性的に物価が上がりにくくなるリスクがある。

セントルイス連銀のブラード総裁は、物価上昇率が19年夏以降も2%を下回る状況が続けば「利下げも支持することがあり得る」と語る。シカゴ連銀のエバンズ総裁も「物価上昇率が1.5%に鈍化すれば、利下げがありうる」と明言する。

09年7月に始まった足元の米景気の拡大局面は、戦後最長の10年間に近づいている。失業率もおよそ半世紀ぶりの低水準で雇用情勢も好調だ。必ずしも金融緩和が必要な局面ではないが、FRB高官が「現在と状況が似ている」と指摘するのは、1998年のアジア金融危機時の対応だ。

98年も米景気は拡大局面だったが、アジア金融危機で米国の株価が下落し、グリーンスパン議長(当時)が同年9月から11月にかけて小規模の利下げに踏み切ったことがある。クラリダ氏は景気拡大時に金融緩和に踏み切った98年の対応を「保険としての利下げ」と表現し、先行きの景気減速の回避策として視野に入れ始めている。

米国の実体経済が下振れすれば、利下げ論はさらに強まりそうだ。1~3月期の実質成長率は3%台の高い伸びとなったが、トランプ政権が仕掛けた中国との貿易戦争は膠着状態に陥った。

トランプ大統領は「1%の利下げが必要だ」と露骨にFRBへ緩和圧力をかける。先物市場も85%という高い確率で「FRBが年内に利下げに転じる」と織り込む。

関税引き上げには中国からの輸入品を値上がりさせて、米国の物価を押し上げる面もある。ただあくまで一時的な要因で、1年たてば前年比でみた影響はほぼ消える。物価の持続的な上昇圧力にはならない。一方で一時的な物価上昇は、個人消費や企業の投資を冷え込ませて景気を押し下げ、先行きの物価停滞を長引かせるリスクもある。

物価の停滞は短期的な利下げ論を引き起こすだけでなく、長期的な金融政策の見直し論にも直結する。FRBは6月4~5日にシカゴで当局者や学識経験者を集め、金融政策の枠組みを考える討論会を開く。2%の物価上昇率目標の小幅修正を検討するほか、短期金利だけでなく長期金利を操作する新しい緩和手法も議論となりそうだ。

日銀幹部は「FRBが利下げに転じれば再び世界的な緩和競争になる。日本も出遅れるわけにいかない」とFRBの政策議論を注視する。15年末に始まった米利上げ局面の転換は、世界的な金融政策の方向性にも影響をもたらす。

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