供給網寸断に懸念 トランプ氏、メキシコにも制裁関税

2019/5/31 14:18
保存
共有
印刷
その他

【ワシントン=河浪武史、メキシコシティ=丸山修一】トランプ米大統領は30日、メキシコの不法移民対策が不十分だとして、6月10日から同国からの全輸入品に5%の関税を課す異例の経済制裁を発表した。メキシコが対策を講じなければ最大25%まで関税率を上げるとしている。歯止めを失ったトランプ氏の関税政策で、北米の複雑なサプライチェーン(供給網)が突然寸断される懸念も広がっている。

不法移民対策はトランプ大統領にとって再選への最優先課題になっている=AP

不法移民対策はトランプ大統領にとって再選への最優先課題になっている=AP

【関連記事】米、メキシコ全輸入品に追加関税5% 不法移民流入で

トランプ氏は30日の声明で「米国は危険な不法移民に何十年も苦しめられてきた。国家安全保障を脅かす異常事態だ」と関税発動の正当性を主張した。米政府高官は記者団に「メキシコが対策を取れば関税は撤回する」と語り、早急な不法移民対策を同国に要求した。

普段は米政権の批判を受け流すメキシコのロペスオブラドール大統領もトランプ氏宛ての書簡を即座に発表し、「両国の対立は望んでいない。対話で解決すべきだ」と呼びかけた。

米国のメキシコからの輸入総額は年3465億ドル(約38兆円)で、中国に次ぐ2番目の輸入相手国だ。自動車関連が1281億ドルと突出し、日本の自動車の対米輸出(564億ドル)の2倍強だ。日本車メーカーも対米輸出の一大拠点としており、メキシコへの投資を拡大してきた。

最近では対中制裁関税の影響を避けるため、中国からメキシコに生産拠点を移管する動きも出ていた。米商務省の統計によると、3月にはメキシコからの輸入額が313億ドルと中国(312億ドル)を上回り、国別で1位となっていた。

米国とメキシコは1994年発効の北米自由貿易協定(NAFTA)の下で関税ゼロを前提にしたサプライチェーンを築いており、制裁発動の影響は大きい。ワシントンのロビイストは「米国とメキシコは自動車が完成車になるまで5回も6回も部品の取引が国境を越えることがある。関税を発動すればコストが雪だるま式に膨らみかねない」と懸念する。国境を複数回またぐ取引が少ない中国と比べ、隣国メキシコへの関税発動は課税率以上に負担が重くなる懸念がある。

それでもトランプ氏がなりふり構わず関税政策に打って出るのは、選挙公約だった不法移民対策で芳しい成果がないからだ。最大の目玉であるメキシコとの「国境の壁」は大統領権限で国防予算を転用して建設費用に充てる奇策を講じたが、24日にカリフォルニア州の連邦地方裁判所が一部差し止めの仮命令を出した。壁建設の差し止め請求は全米20州に広がり、20年の大統領選までに公約を実現するのは困難な情勢だ。

中米からの不法移民の北上阻止というトランプ氏の要求にメキシコが応えられるかは微妙だ。当初は寛容だったロペスオブラドール氏も国内世論の反発を受け、不法移民を拘束して強制送還する姿勢を強めている。だがグアテマラとの国境付近には警備もほとんどなく、毎日のように移民が押し寄せている。

トランプ政権は18年3月、安全保障を理由に鉄鋼やアルミニウムに追加関税を課し、中国製品には知的財産権の侵害を理由に制裁関税を発動した。今回は米国を脅かす非常事態に対応するため商業活動を規制する権限を大統領に与えた「国際緊急経済権限法」を根拠にした。不法移民対策とからめた一方的な貿易制限は世界貿易機関(WTO)ルールに再び抵触しかねず、各国の批判を浴びるのは必至だ。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]