2019年6月17日(月)

「発覚まで8~10回流出」 和牛受精卵流出、検察が指摘

関西
社会
2019/5/30 17:53
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輸出が認められていない和牛の受精卵などを中国に一時持ち出したとして、家畜伝染病予防法違反などの罪に問われた飲食店経営、前田裕介被告(51)と知人の無職、小倉利紀被告(64)の初公判が30日、大阪地裁(松田道別裁判長)であった。検察側は今回の事件が発覚するまでに、両被告が8~10回にわたり受精卵などを不正に持ち出していたと指摘。前田被告に懲役2年6月、小倉被告に懲役1年6月を求刑し、即日結審した。判決は6月25日。

冒頭陳述で検察側は、前田被告が中国人の知り合いの依頼で2012年ごろから、和牛の受精卵などが入ったスーツケースを小倉被告に渡して運ばせる方法で、8~10回ほど中国に不正に輸出していたと指摘した。前田被告は中国人の男らから1回あたり30万円を受け取り、報酬3万円と渡航費などを小倉被告に支払っていたと述べた。

前田被告は被告人質問で「受精卵の輸出に検査がいるのではないかという疑問はあったが、海外との取引が増えるとの期待から軽率に持ち出してしまった」と説明。弁護側は両被告の役割が運搬役にとどまるとして、執行猶予付きの判決を求めた。

冒陳などによると、両被告は共謀し18年6月29日、検疫所の検査を受けず、和牛の受精卵や精液が入ったストロー状の容器計365本をフェリーで大阪から中国へ輸出したとされる。受精卵などの流出元とされる徳島県の牧場経営、松平哲幸被告(70)も同法違反ほう助などの罪で起訴されている。

国や自治体、防止策手探り
 今回の事件を機に、農林水産省は和牛の受精卵などの不正流通を防ぐ仕組み作りについて専門家による議論を始めた。和牛の遺伝資源を譲るよう海外から持ちかけられる畜産農家は多く、発覚したのは「氷山の一角」との指摘も上がる。自治体の中には、国に先駆けて独自に罰則付きの条例などをつくる動きもある。
 大阪府警は今回、被告らが輸出時に検疫を受けなかったとして、家畜伝染病予防法違反容疑を適用した。同法は本来、伝染病のまん延を防ぐのが目的。和牛の受精卵や精液の海外流出を直接罰する規定がないため、府警は"苦肉の策"で関係者の摘発にこぎ着けた。
 府警幹部は「逮捕した3人の背後で密輸ブローカーが暗躍していた可能性もある」と指摘する。ただ「現行法でこれ以上関係者を立件することは困難」として、一連の捜査を終えた。
 事件を機に、農水省は再発防止策の検討に着手。受精卵などの管理実態の調査では、一部の授精所から「販売先の農家が精液をどう扱っているかは知らない」との回答もあり、管理が「農家任せ」になっている現状が浮かんだ。全国に1634カ所ある人工授精所のうち、約3割の457カ所が経営者の高齢化などで休廃業していたことも分かった。
 「和牛の遺伝資源を知的財産としてどう扱うか」「罰則強化の是非は」。農水省は専門家による検討会で、流通管理や資源保護の在り方を探る。畜産関係者のほか、弁護士や弁理士らが現行法の改正も視野に議論を続けている。
 国に先駆けて、独自の規制を模索する自治体もある。
 今回の事件で流出元の牧場があった徳島県は5月から、畜産農家などの流通管理のルールを定めた「要綱」の運用を始めた。人工授精所から受精卵などがブローカーに不正流出していたことが明らかになったため、要綱では販売先が人工授精所か雌牛を所有する農家であることを確認するよう規定した。
 購入する農家は「特定畜産経営者」として県に届け出るよう義務付け、購入元や日付などを記録し、5年間保存するよう求めた。県は必要に応じて農家への立ち入り検査を実施する。県の担当者は「手探りだが、現行法の枠内で有効な管理方法を見極めたい」と話す。
 鳥取県は罰則付きの条例制定を検討中だ。現在、種牛となる雄牛や精液の流通は県が一元管理し、農家で生まれた雄牛は去勢する仕組みをとるが、担当者は「県外や海外への流出の可能性も踏まえ、法の穴を条例で補完したい」と力を込める。
 但馬牛などの産地の兵庫県は年一度、農家での人工授精を担う獣医師らへの聞き取りで精液などの使用実績をチェックしてきた。担当者は「流出は聞いたことがない」とするが、「嘘をつかれると見抜くのは難しく、なんらかの手立てが必要かもしれない」と話す。
 東京理科大の生越由美教授(知的財産政策)は「ひとたび遺伝資源が流出すればコピーが際限なく作られ、計り知れない被害が出る。大多数の善良な農家の利益を守るには、流出目的の売買などに厳しい罰則を設けるべきだ」と話している。

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