トランプ氏訪日後、米国株急落のワケ - 日本経済新聞
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トランプ氏訪日後、米国株急落のワケ

27日の日米首脳共同記者会見での質疑は北朝鮮、イランなど多岐にわたったが、NY市場が注目した発言は米中貿易摩擦関連のトランプ米大統領の発言だった。

「中国は(貿易協議で)合意したがっているが、私たちにはその用意がない。関税はどんどん急激に、容易に上がりうる」との威嚇発言の部分だけが市場で独り歩きしている。「中国は米国の要求を受け入れない」との中国での強硬論調が意識されている。

貿易摩擦への悲観論が強まり、「米中経済の共倒れが世界経済の失速を誘発しかねない」との警戒感からマネーは株から米国やドイツの国債に流れた。特に米10年債が買われた結果、将来の経済見通しを映す指標とされる同利回りが2.26%まで急落したことが、株売りの引き金となった。10年債利回りは現在の米政策金利(フェデラルファンドレート=FFレート)の下限2.25%とほぼ同水準だ。

ダウ工業株30種平均も朝方は131ドル上昇したが、その後はほぼ一貫して下げ続け、237ドル安で取引を終えた。円も「安全通貨」として買われ、NY市場で1ドル=109.30円台まで円高が進行した。

NY市場のトランプ氏訪日に関する評価は日本での「おもてなしムード」に比べ、至ってクールだ。シンゾウ・ドナルドの仲をもってしても「日米通商の溝は埋まらず」と語られている。

6月の20カ国・地域(G20)首脳会議への期待感も剥落してきた。米中関係は悪化しており、トランプ・習近平両氏も国内強硬派への配慮から、うっかり通商首脳会談には持ち込めないとの悲観的観測が浮上している。とくに単なる関税引き上げ合戦から、ハイテク覇権争いという両国ともに絶対譲れない命題に移行しつつあるので長期化は必至だ。

世界経済の縮小均衡を覚悟した市場は「守り」の姿勢に入っている。米連邦準備理事会(FRB)が利下げという助け舟を出すことに極めて慎重な姿勢で、「忍耐強く見守る」スタンスを強調していることも不安材料だ。

欧州議会選挙後の欧州市場では、10月に任期が切れるドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の後任人事が不透明要因である。

安倍首相の「米国大統領との蜜月演出外交」も、「日本経済は依然デフレ・モードから脱却できず」との市場の厳しい評価を変えることはできなかった。

なお28日には、5月の米消費者信頼感指数が前月比4.9ポイント上昇して2018年11月以来の134.1という高水準を記録したが、これは米中悪化前の遅行指標として扱われた。

いっぽう、5月のダラス連銀製造業景況感指数がマイナス5.3と大きく落ち込んだことは材料視された。

市場は売りの口実探しのごとき様相である。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・公式サイト(www.toshimajibu.org)
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuo.toshima@toshimajibu.org

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