/

[NAR寄稿]愛国主義宣揚、中国映画のジレンマ

中国の映画館の数は今や世界で最も多い。年間映画チケット販売枚数はまもなく米国を抜いて世界首位に躍り出るだろう。中国共産党宣伝部常務で国家電影局長の王暁暉氏はこのほど、2035年までに中国を「映画強国」にすると宣言した。

だが、この構想なるものには多くの相反する目標が盛り込まれている。例えば、興行収入が1億元(約15億8千万円)を超える作品を国内で年間100本製作する。ソフトパワーで対外影響力を高めるため、中国映画を「グローバル化」する。そして、映画の筋書きは愛国的で「中華民族の復興」をたたえる内容でなくてはならない。

01年に中国は世界貿易機関(WTO)に加盟したため、中国映画産業は海外勢との共同製作などで恩恵を受けてきた。ドリームワークス・アニメーションなどハイテクを駆使する米ハリウッドとの提携で中国映画産業は力をつけた。

それを受け、当局は国益にかなう映画を製作するように圧力を強めている。経済開放は政治統制強化につながり、昨年、映画製作各社は国務院(内閣)管轄になった。観客、当局ともに満足の大ヒット作は経済、軍事、さらには宇宙への拡張という中国のこの時代の精神を取り込んだものだ。

タイを旅する中国人科学者らの革新精神をたたえた12年の映画「ロスト・イン・タイ」の興行収入は2億8百万ドルを記録した。威容を誇る中国海軍がアフリカの架空の国を危機から救う17年公開の映画「戦狼2/ウルフ・オブ・ウォー」の国内興行収入は8億ドルを突破した。「流浪地球」の興行収入は4月の上映終了を前に7億ドルに迫った。

注目に値するのは、こうした愛国映画が中国国内でしか成功していないことだ。前述の3本のうち、中国本土外で興行収入が200万ドルを突破した作品は1本もない。香港の観客でさえ、ほとんど関心を示していない。

国家主義的な映画の筋書きは中国の観客にはアピールするかもしれない。しかし、硬化する中国外交に懸念が増大している折り、海外の観客からはいよいよ敬遠される恐れがある。

「ロスト・イン・タイ」では東南アジアの人々は田舎者か売春婦だった。「戦狼2/ウルフ・オブ・ウォー」では白人はテロリストで、アフリカ人は自分の身を守れない労働者。「流浪地球」では中国を世界のリーダーとして持ち上げている。

中国の映画会社が国家主義宣揚の作品を要求される限り、海外が冷淡な状況は変わらないだろう。愛国主義、国際的アピール、興行成功という要求に答えなければならないのを気の毒に思う。

Aynne Kokas(「ハリウッド・メイド・イン・チャイナ」=未邦訳=の著者。米バージニア大学メディア学准教授)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン