2019年7月17日(水)

中国ハイテク 魅せられる欧米(The Economist)

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The Economist
2019/5/28 2:00
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「中国企業はまっとうな手段から違法な手段まで駆使して、米国の最先端技術を入手しようとする」とは、対中批判を展開する米国人タカ派の決まり文句だ。

中国は長年、自国で半導体を開発、生産できるよう取り組んできたが、海外から調達する半導体の額は今も同国の原油輸入額を上回る。また、西側諸国の政治家や企業は、中国の競合企業に知的財産を盗まれているとしょっちゅう不満を口にしている。このような状況で、独自の最先端技術を誇る中国企業が存在するというのはにわかには信じがたい主張に聞こえるかもしれない。

米半導体大手ザイリンクスが北京本社の機械学習のスタートアップ、ディーファイを買収するなど中国の最先端技術に関心を持つ欧米企業が増えている=ロイター

米半導体大手ザイリンクスが北京本社の機械学習のスタートアップ、ディーファイを買収するなど中国の最先端技術に関心を持つ欧米企業が増えている=ロイター

だが欧米のIT(情報技術)企業はここへきて中国のハイテク企業への関心をますます強めている。場合によっては中国政府の黙認のもと、競合企業を100%買収しているケースもある。複数の関係者によると、こうした現象が始まったのは2016年に遡るという。

その買収額の多くは少額で、ニッチな産業であることが多い。例えば電気自動車(EV)向けのパワートレインやセンサーを製造する企業、SNS(交流サイト)上で影響力を持つインフルエンサーを抱える代理店などだ。

米中貿易摩擦がエスカレートする一方で、この傾向は定着しつつある。そうした中、米政府は米中対立悪化を受け、昨年10月以降、米IT企業のトップをホワイトハウスに呼び、中国で事業展開する危険性を、本来なら民間企業には漏らさない機密情報を含めて説明会を実施している。

しかし、中国で実際に事業展開している企業は、米政府の中国に対する考え方に必ずしも賛同していない。中国に進出した欧州の企業で構成する在中国欧州商工会議所が毎年実施する調査で昨年、「中国企業は欧州企業と同程度、またはそれ以上に革新的だ」と回答した企業が初めて過半数を上回り、61%となった。今年、その比率はさらに約8割に拡大した。

■中国スタートアップ買収は競争力の強化に

これまで西側諸国の企業が中国企業を買収する背景には3つの理由があった。第1は中国での市場シェアの獲得、第2は中国における販売網の拡充、そして第3はあまり技術力を必要としないローテク分野の生産業者を調達するためだった。

しかし今日、外国企業にとって中国のスタートアップ企業を買収することは、競合他社にない強みを入手することにつながる。買収対象の企業は研究チームや特許、顧客を既に抱えているうえに、中国政府から潤沢な補助金を受け取っている場合もある。一方、中国企業の創業者にとっては、中国国内での資金調達が厳しくなっているだけに買収提案は願ってもない展開となる。

欧米企業が入手しようと考えている技術は、他の国からは入手できない場合もある。自動車の内装で世界大手の仏フォルシアは17年、車と人がコミュニケーションするためのヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)開発の江西好幇手電子科技(本社は中国南東部の江西省)を買収した。フォルシアは江西好幇手電子を見いだすまで1年間、世界各国で同様の技術を探し求めていたため、中国で同社を発見した時、「フォルシアは感嘆の声を上げた」と内情に詳しい情報筋は言う。フォルシアは江西好幇手電子の技術に価値を見いだしたからこそ、買収の提案をしたのだった。

外国企業が中国企業に関心を持つのは、人工知能(AI)から医療技術、クラウドコンピューティング、さらには半導体の分野も含む。半導体やソフトウエアの企業の買収には、「米国も欧州も多大な関心を寄せている」と米国の技術コンサルティング会社、ティリアス・リサーチのジム・マクレガー氏は指摘する。

そうした直近の典型例が米半導体大手ザイリンクスが昨年7月、北京に本社を置く機械学習スタートアップのディーファイ・テック(深鑑科技、編集注、中国の人工知能関連の3大ユニコーンの一つとされる)を買収し、大きな関心を集めた件だ。買収金額は公表していない。ザイリンクスの半導体向けにディーファイがソフトを開発した時はまだ創業間もなかったが、ディーファイは創業からわずか19カ月で総額3億ドル(約327億円)近くの資金を調達した。ザイリンクスは買収を公表した際、ディーファイの技術力を「業界の最先端を行く」と評した。

■手術ロボット最大手が中国の手術関連企を買収

米調査会社ディーロジックによると、米IT企業が18年1月以降、中国IT企業に投資した金額は約10億ドルに上る。一方、中国IT企業による米IT企業への投資額は、その4倍近い38億ドルに達する。

それでも米各社による中国企業への投資を見ると、その関心の高さが分かる。米アップルは16年、中国配車アプリ大手の滴滴出行(ディディ)に約10億ドルを出資した。同年、米マイクロソフトはアプリを通して音声コマンドに対応する「AI執事」の来也(ライイエ)に出資。米インテルは18年にクラウドサービスプロバイダー、今年はレジなし店舗向けのソフトウエア開発など、複数の中国スタートアップ企業に出資した。

米アルファベット(グーグルの親会社)も18年、中国のネット通販大手の京東集団(JDドットコム)に5億5000万ドル投じたが、その出資比率は1%にも満たない。AI向け半導体を手掛ける米エヌビディアは、自動運転技術では中国の最先端企業の一つとされる文遠知行(ウィー・ライド・エーアイ)と、中国と米国でトラックの自動運転を開発中の米スタートアップ、トゥーシンプルに出資した。

手術ロボット世界最大手の米インテュイティブ・サージカルは昨年、中国のスタートアップ、ブロンカスの株を取得した。中国のベンチャーキャピタル(VC)、啓明創投のニサ・ロン氏の説明によると、これは高度な肺の手術の支援技術を入手するための出資だという。また、ロイター通信は15日、米フェイスブックが複数の中国企業への出資を検討していると報じた。

■なぜか買収阻止に動かない中国政府

中国政府は過去10年間、外国企業による中国企業の買収を1度しか阻止していない。米コカ・コーラが09年、中国の飲料大手、中国匯源(フイユエン)果汁集団を24億ドルで買収しようとした時だけだ。

中国における外国企業による投資が禁じられている分野の数は昨年、63から48に減少した。ディーファイの買収について、中国の規制当局が、同社の米国企業による買収を審査しなかったことは多数の関係者を驚かせた。ディーファイの技術は軍事転用が可能であり、従って国家の安全保障にかかわるとして、外国企業による買収は認められないとすることは容易だからだ。

もし現在の米中貿易摩擦と「技術を巡る冷戦」が存在していなければ、海外企業による中国企業の買収件数は何倍にも増えるだろう。

米中の対立から今後はこうした買収は増えそうにない。そのことに中国に対する警戒感を募らせている米タカ派は満足しているに違いない。だが、米企業はけっしてそうは思っていないはずだ。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. May 25, 2019 All rights reserved.

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