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ペースにとらわれすぎず 走り自体を楽しもう

ランニングインストラクター 斉藤太郎

あるクリニックで、こんなお父さんの質問がありました。「小学生の息子と親子ランニングをしたいけど、ついてきてくれません」。オーソドックスな回答は「もっとゆっくりしたペースで走ってあげてください」ですが、以下のような誘い方が効果的かなと考えます。「近くのコンビニまでアイスを買いに走っていこう」「公園へ行って2人でボールをパスし合いながら走ってみよう」

ランニングオンリーではなく、夢中になれる別の目的を軸に、結果的に走ってしまう誘い方です。大人は走ること自体を楽しめますが、子どもたちはそうはいきません。走ったり歩いたり、目に入ったものに興味を持って道草を食ったり。ところがです。サッカーやスポーツ鬼ごっことなると目つきが変わり、「やめよう」と言われるまで走り続けます。ボールを奪う、得点する、そんな目的に向かっていつの間にか走っているのです。疲れたら無意識に次のアタックに備え、呼吸を整えます。

挑戦と失敗、反省を繰り返し、子どもたちは自分にちょうど良いペースを把握する

そんな自然体のインターバルを重ねるうちに「ペースを上げすぎた」「もっと行ける」などと感覚が研ぎ澄まされ、挑戦と失敗、反省を繰り返し、自分にちょうど良いペースを把握するのだと思います。相手の意表を突くようなスパート、コーナリングやターンの巧みさも養われるのでしょう。幼い頃はサッカーなどの球技スポーツを志していたという陸上長距離選手が割と多いのも、こういった運動経験を経ているのだと考えます。

楽しみながら走りを学ぶ

春の運動会を前にランニング教室講師をいくつか担当しました。100名を超えるような教室では楽しみながら学べるプログラムを考えます。ドリル1種目ではなく、複数のストーリーがある取り組みをします。

一例を挙げます。まずスキップなどをして40メートル進んだら、歩きに移行して息を整えます。ある程度歩いたら往路終了。等間隔に置かれたコーンの間をジグザグに進むスラローム走で元の場所に戻ってきます。こんな感じで取り組むと「やらされている感」はなく白熱し、もっと走りたいと訴えてくるケースがありました。

大会や練習で大人が子どもに事細かにラップを伝え、指示を出す光景を目にします。前提となっているのはイーブンペースと、上手に力を出し切って走ること。もっと自由に走らせてあげても良いのではと感じます。今の子どもは、幼いうちから一定ペースで走ることに慣れすぎている。ペースを守って結果に喜ぶ裏側で、子どもらしくない走り方を植え付けていないでしょうか。そういうものはもっと先で良いのではないでしょうか。

大人のランニングに関連づけます。疲労度の目安となる乳酸が血液中に蓄積し始めるポイントを「乳酸性作業閾値(いきち)」と言います。ランニングではこの値を引き上げることが大切で、そのための効果的な練習方法が一定ペースを維持して走ること。よって、大人が一定ペースを保って走る練習を否定はしません。

ですが、一定ペース至上主義というのか、ラップの変動にあまりに神経質な方が多くなっているのは気になるところです。形にとらわれず、揺さぶりやペース変動を受け入れ、ランニングを楽しむことを大切にしてもよいのではないでしょうか。まずは走りに没頭し、数値のチェックは後回し。そうすることで、少しずつ走りのマネジメント能力が高まるのではないでしょうか。

「セカンドウインド」という現象があります。走り出しは酸素の需要に供給が追いつかず、息苦しい。ところが、しばらく走っていると呼吸が楽になり、自然とペースが上がってくる。この状態がセカンドウインドです。このような現象をタイム表示や理論から導くのでなく、呼吸の変化や心拍、脚の疲労度に意識を集中させ、柔軟に対応することで実現させてほしいのです。

車のカタログに記載された燃費が日常運転で達成されることはまずありません。ランニングも似ていて、多くのランナーは達成されるはずのない最高燃費、つまり一定ペースで走り切ることを理想にレースプランを立てがち。ですが、坂や路面、風、気温と様々な条件に左右されるため、当然ながら走りの燃費は落ちます。

不安定を前提に対策を

徹頭徹尾ペースを乱さずに走り抜こうとすることが大切なのではありません。マラソンは、心拍や呼吸、心理面の様々な波が訪れる中で、それらを巧みにマネジメントしながらゴールまで走り続ける競技。対策のトレーニングでは不安定を前提に組み立てられるべきです。コースや天候への愚痴を言ったり、戦略や展開への言い訳をしたりする前に、基となる考え方を修正すべきです。

ニッポンランナーズではこのところ、不整地や起伏、階段を使った練習によく取り組みます。コース中にミニハードル越えや、スラローム区間を設けることもあります。導入の背景には前述の理由が多く含まれます。

ニッポンランナーズではミニハードルを使ったスラローム走に取り組んでいる

あえてペース変動をつくる意味では、1キロごとにペースを上げ下げする「ウエーブ走」もします。ペースアップ区間の目安はハーフマラソンペース。下げる区間はそれより1キロあたり30~60秒落とします。ペース上昇の際に呼吸が乱れても、続くペース下降区間で走りながら回復させ、次の上昇に備えます。アタックランと回復ランの繰り返しで、球技のような走り方ともいえます。

10~14キロのウエーブ走では、1キロごとのアタックランと回復ランのペースは以下のようになります。

<サブ3を目指す人> 3分50秒/4分30秒

<サブ4を目指す人> 5分15秒/6分

<サブ5を目指す人> 6分/7分

最近の腕時計は様々な機能が搭載されています。設定ペースに導いてくれたり、アラームでペースの変動を教えてくれたりします。ツールとしてはとても効果的で、コーチがいないランナーには心強いことでしょう。そのアップグレードの速さに驚かされますが、はたしてランナー自身のアップグレードは進んでいるでしょうか。

本来高まるべきは時計の機能ではなく、ランナーが自身の走りをマネジメントする能力。素晴らしいランナーはペース勘がさえ、どういう局面で体がどうなるかを察知できます。皆さんにはそういう部分を高めてほしいと思います。競馬に例えると、ランナーはジョッキーであり、調教師であり、馬自身です。いくつもの役割をマネジメントする、そんな楽しみ方をしてみてください。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ、19年理事長に就任。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。

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