2019年7月19日(金)

違和感から目覚める自分 作家・村田沙耶香氏
令和の知をひらく(6)

文化往来
2019/5/27 6:30
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女性は見た目に気を使い、料理上手で、「女の子として優秀」でなくてはならない。そんな価値観にずっと違和感をおぼえてきた。自分だけのことなら笑ってやり過ごせる。でもこの状況を何も変えないまま若い世代にバトンを渡してしまっていいのだろうかと、複雑な気持ちになっている。

「たとえ世界との摩擦が激しくなっても、自由に生きるときに感じる喜びがある」と話す作家の村田沙耶香氏

「たとえ世界との摩擦が激しくなっても、自由に生きるときに感じる喜びがある」と話す作家の村田沙耶香氏

●「意識の移植」が問う倫理 脳科学者・渡辺正峰氏 令和の知をひらく(1)
●ネットの「無」に抗う時 作家・上田岳弘氏 令和の知をひらく(2)
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●「貸し借り」が広がる社会に 文化人類学者・小川さやか氏 令和の知をひらく(5)

■男性社会がつくり上げてきた「女性性」は、知らず知らずのうちに女性たちを抑圧してきた。

平成元年に10歳になった。当時はバブル経済の末期で、ボディコン姿の女性と「(送り迎えをする)アッシー君」や「(食事をおごる)メッシー君」のことをメディアで知った。若い女性が体を露出して、男の人がごちそうするという構図に気持ち悪さを感じた。

高校時代は「女子高生ブーム」の全盛期だったが、ポケベルやルーズソックスなど女子高生のアイコンとされるものは身に着けなかった。今思うと、ボディコンギャルも女子高生も、メディアがキャラクター化して盛り上げ、若い女性がそれを演じさせられているのが嫌だったのだと思う。

自分が大人になってから、ある大学生と話をして、とてもつらい気持ちになったことがある。彼女は「自分は容姿がよくないから、就活もするけれど、女子大生というブランドがあるうちに婚活もする」と言っていた。自分で食べていくことを初めから諦めて、身売りのような発想をしていることが悲しかった。

■心の奥の違和感に気づくとき、人は主体的に生き始めることができる。

人間の本性と考えられているものは、実際は社会によっていつの間にか植え付けられた考えにすぎないかもしれない。そう気づき、違和感を持つことを私はネガティブには捉えていない。違和感があるというのは、眠っている自分の意志があるということだから。

昨年刊行した「地球星人」という作品に、自分を魔法少女だと信じる主人公が「いつになったら、生き延びなくても生きていられるようになるの」と問うシーンがある。自分の意志を目覚めさせ、自分の価値観で「生きる」こと。それは違和感をそのままにして、ただ「生き延びる」のとは違う。たとえ世界との摩擦は激しくなったとしても、人間は自由に生きるときに初めて感じる喜びというものがあるはずだ。

私は社会のあり方への反発やメッセージを込めて小説を書くことはない。でも作品の中に人の心の痛みや苦しみを保存できると思っている。私自身もこれまで読んできた小説からそれを受け取り、「自由に生きていい」「男性の都合に合わせるのではなく、自分で選んで恋をしていい」と思えるようになった。

小説を読むという行為が、読者にとって心を解放するきっかけになってほしい。そうして、私たちが次の世代に渡すバトンが少しでも良いものになっていけばと願っている。

(聞き手は桂星子)

むらた・さやか 1979年千葉県生まれ。著書に「殺人出産」「消滅世界」「コンビニ人間」(芥川賞)など。

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